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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ― ホワイトデー ― 3月14日12時、自販機前 美琴は普段通り先に待ち合わせ場所に着き、上条の登場を待っていた。 約束した場所は最早二人にとっては外せない自販機前であり、時間は12時ジャスト。 そして今はその約束の時間である12時。 しかし、集合時間になっても当の上条はまだ現れていなかった。 「遅いわね…何かあったのかしら。それとももしかして何か厄介事?」 上条の遅刻は別に今に始まったことではなく、付き合う前は毎回遅刻していたくらいだ。 だが付き合うようになった後は美琴の呼びかけもあり、回数は激減し、上条はここ一カ月に遅刻を二、三回はしたが、それでもその程度にまでなった。 それ以外は十分前には集合はできるようになり、最近では遅刻の方が珍しい。 だからこそ、最近の早めの集合に慣れてしまった美琴はすっかり遅刻の耐性がなくなり、苛立ちを覚えていた。 「……まあ、今までが出来すぎていただけであって、むしろこっちが本当のアイツなのかな…」 いくら付き合うようになってからは彼の厄介事が激減したとはいえその可能性は拭えない。 上条の不幸や厄介事の元々の原因とも言える彼の右腕は未だ健在なのだから。 「今日は長期戦かなぁ。……まあそれならそうで、貸しができるから悪いことづくめってわけじゃないけど」 美琴は今までの経験と上条の彼女たる美琴の勘が若干の嫌な予感を訴え、長期戦を覚悟した。 貸しができるから何をさせようか。 最早美琴はそこまで思考を張り巡らせていた。 今からその時が楽しみで仕方ない。 とりあえず長期戦に備えて何か飲み物でも買おうと自販機に目を向ける。 以前ならばお金を入れずに、自販機回し蹴りをいれてジュースを手に入れていただろう。 だか美琴は前に上条に自販機に回し蹴りをいれることについての注意を受けたことがある。 それ以来はちゃんとお金を入れて買っている。 そしていつも通りに財布の中の小銭を取り出して、自販機に入れようとした、 その時だった。 ――――ゲコゲコ、ゲコゲコ 不意に美琴の携帯電話が着信したことを告げる。 美琴は慌ててとりあえず手にした小銭をしまい、ディスプレイを見るとそこには、美琴の待ち人、上条当麻の名が表示されていた。 時間は集合時間をとっくに過ぎていることから、これは上条が遅れるという連絡であると判断するのが妥当だろう。 しかし、美琴は何故だか嫌な予感がした。 普段の彼なら遅れるとしても連絡も特にしない。 その彼が今回に限って連絡をよこした。 その原因は不明であるが、それでも美琴には何かが起きたとしか考えられなかった。 (いや、でも……まさか本当には…ねぇ?) 美琴は恐る恐る携帯の通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。 「…もしもし」 『美琴…か?…悪い、ちょっとそっち行けなくなった。そっちに行く途中、なんか変な連中に追われて、なんとか撒いて、家に戻ったんだが…』 彼の息絶え絶えの声を聞いて美琴の背筋に嫌な汗が流れた。 今のところは上条は無事らしいが、この後は何が起こるかはわからない。 その彼が言うところの変な連中が直に彼の家の場所をつきとめるかもしれない。 「ちょっと、大丈夫なの!?何か、私にできることはある!?」 『……もしかするとお前の所にやつらが行くかもしれない。今のところ家の周りには連中はいない様だから、今の内にうちに来い』 「はぁ!?アンタは私を誰だと思ってんのよ!私は学園都市に七人しかいない超能力者の第三位なのよ!?アンタを追いかけまわした連中なんて、この私がぶっ飛ばしてやるわよ!!」 『馬鹿野郎!!それでもしお前に何かあったらどうすんだ!!俺は自分が襲われるより、そっちの方が嫌なんだ!!』 上条はいつでもこうだ。 誰かを思うあまり、自分のことを全く考えていない。 もし彼に何かが起きた時、それを悲しむ人のことを全く考えていない。 そんな考え方しかしない彼に、美琴は腹が立った。 「私はアンタが、当麻が傷つく方が嫌!!もっと自分を大事にしてよ…!!」 上条は少し黙った。 それが何のためかは今の美琴にはわからない。 美琴の悲痛とも言える心からの叫びが彼に届いたのかもしれない。 少なくとも美琴はそう思った。 『……わかった今後は気をつける。でも今は、今回だけは俺の言うことを聞いてくれないか?』 上条の声は穏やかだった。 泣いている赤ん坊をあやす時のように優しく、包み込むような声。 「……わかったわよ。行けばいいんでしょ?それじゃ家の場所教えてよ、行くから」 別に美琴は上条の言い分を納得したわけではない。 でも彼にあんな声で頼まれたら、断れる気にもなれなかった。 『俺の家の場所は今からGPS情報を送る。それでわかるよな?』 「うん、大丈夫。あと今回だけだからね、こんな頼みを聞いてあげるのは」 『わかったわかった。それじゃあな』 上条がそう言うと一方的に電話は切れた。 そして間もなく彼からのメールが届く。 (ここか…まあアイツの家を知れたところだくは良しとするわ) 上条の家までの大体の道のりを確認すると、美琴は携帯を閉じて、目的地に向かって走り出した。 怒りと心配な気持ちを早く彼にぶつけるために。 美琴は目的地である上条が住む学生寮に着いた。 この一ヶ月で上条とはかなり親密になり、様々な所へと出かけたことはあったが美琴が彼の部屋に訪れたことは未だない。 初めての来訪がこんな形になってしまったのは彼女の心の中では残念としか言いようがないのだが、今はそのことについて怒っている場合ではない。 走っていたためかそれほどの時間はかかっていないのだが、彼女には長く感じられた。 自分が着くまでに彼に何か起きてないか。 それがとにかく心配だったからだ。 今美琴が辺りを見回す限り、その学生寮には特に変わったところは見られない。 この静けさは何も起きてないためのものなのか、それとももうすでに事が起きてしまった後によるものなのか。 そこまでは判断できなかったが、とりあえず先程の上条からのメールに書かれていた彼の部屋に向かうべく、美琴は学生寮のエントランスをくぐる。 無論、一応自分が誰かに尾行されていないか、学生寮の周りに不穏な動きがないかを確認してからの行動である。 (全く、ここのセキュリティーは一体どうなってんのよ。これじゃ誰でも自由にお入り下さいって言ってるようなもんじゃない) 確かに美琴の思うように、この学生寮にはセキュリティーと言える代物はほとんど見受けられない。 辛うじて監視カメラ程度のものが見られるものの、こんなものは今時どうとでもなる。 とはいえ、あくまで彼女の基準は自分の住む常盤台女子寮なので、余計に目につくのだが。 (まあそれについては今はおいといて、早く当麻の部屋に行かないと) 美琴は周りを見回してエレベーターを見つけると、真っ先にエレベーターに乗り込み、上条の部屋のある七階のボタンを押した。 学園都市特有の揺れを感じない高速エレベーターにより、あっという間に七階に着き、上条の部屋を目指す。 美琴が上条のであろう部屋の前に着くと、とりあえず周りを見回し何もないことを確認する。 美琴の目では学生寮付近同様、特におかしな点などは見られず、普通の日々の学生寮と何ら変わりないように見えた。 なので、上条の部屋のインターホンを押す。 インターホンの無機質な音が鳴り響き、上条の応答を待つ。 ―――しかし、返事はない。 (ッ!!うそ…嘘でしょ!?) 微かな不安が彼女の脳裏をよぎった。 美琴は手を震わせながらも、無我夢中にドアの取っ手に手を伸ばす。 幸い鍵はかかっておらず、ドアを引いた時の手応えはなくあっさりドアは開いた。 「当麻!!」 パァンッ!!! (ッ!!……えっ?) ドアを勢いよく開けた瞬間、銃声にも似た音が部屋中に響いた。 その音に驚き、美琴は肩を大きく揺らしたが、彼女はそれどころでは済まない。 美琴は何が起きたかは全く理解できなかった。 やがて何もかもがわからない状況下で、少しぼんやりしていた視界は次第にはっきりしてゆき、美琴は目の前の光景を目の当たりにする。 だが、それでもその光景を理解できなかった、いや、理解したくなかった。 今までの自分の十分すぎると言える程の警戒、彼の身の心配、万が一のときの恐怖。 その光景はそれら全てを馬鹿にするような光景だったからだ。 「あ、あ、アンタはあああああぁぁぁぁあああ!!!!!!」 先程の銃声に似た音にも負けず劣らずの怒号を美琴が発して、上条の部屋に彼女の電撃が放たれる。 部屋のことなど全く考えていない無配慮の数億ボルトにも達する無慈悲なる電撃である。 「どわああああぁぁぁぁあああ!!!!!!や、やめろおおおおぉぉぉぉおおお!!!!」 そして、その美琴の怒号にも負けない程の声量で上条の部屋にいた誰かから発せら、美琴に飛びついた。 その声の主とは。 そう、ここの部屋の主である上条当麻であった。 「きゃあ!……あ、アンタ!!なにしてんのよ!!」 「はぁ!?んなもんお前がいきなりそんな全開でビリビリしだすからだろうが!!」 今の彼らの態勢は上条が玄関に立っていた美琴に飛びついた形であったため、ちょうど上条が美琴を押し倒したような態勢だ。 「違うわよ!なんでアンタはこんな時にあんなことをしたのかって聞いてんのよ!!」 美琴の言うところのあんなこと。 つまり、先程の銃声に似た音の原因となる上条の行為のことだ。 勿論、美琴に向かって本当に銃を撃ったなんてことは決してない。 では何だったのか。 答えはクラッカー。 上条は美琴に向かって三個程のクラッカーを同時に放ったのである。 それらのクラッカーの中から放たれた長い糸状の紙や紙吹雪が美琴にかかるその光景は、美琴がつい先程まで醸し出していた緊迫した雰囲気を一気にぶち壊す程、非常に馬鹿げたものだった。 「え、えーっとですね…それは…」 「アンタは変な連中に追われてたんじゃないの!?それをこんなことして…馬鹿じゃないの!見つかったらどうすんのよ!!」 「み、美琴!落ち着けって!!」 「これが落ち着いていられるもんですか!!大体なんでアンタはこんな時でむッ…!!」 美琴のすぐ近くでする上条の匂い、彼女の視界いっぱいに広がる彼の顔、そして口元の柔らかくも、熱く、とろけるような甘さの感触。 上条は美琴にキスをしていた。 彼らはバレンタインの日には三度ほどしていたのだが、それ以降は頻繁にしていたわけではなく、キスは稀にしていた程度。 なので美琴はこの感触に慣れているわけではなく、さらに突然されたことにより顔を急激に赤く染める。 そしてその熱はすぐに美琴から離れた。 「…落ち着いたか?」 コクコク、と角張った動きで美琴は黙って頷く。 「はぁ…お前がいきなりところかまわずビリビリすっから、玄関の壁が焦げちまったじゃねえか……不幸だ」 「ご、こめん……で、でも、アンタがこんな時にあんなことするからでしょ。…ちゃんと説明してよね」 美琴は鋭い目つきで上条を睨めつける。 対して上条は少し疲れたようにため息をつき、そして睨めつけてくる美琴の視線に対してしっかり目線を合わせて、 「ああ、アレな。アレは全部嘘。別に俺は誰にも追われてなかったし、ずっと家にいたよ」 「………………は?」 「いやな、一昨日も昨日の昼にも言ったとおり、昨日に今日渡す菓子を作ったんだよ。でもそれだけじゃお前を喜ばせる自信がなくて、隣りに住んでる土御門って奴にちょっと相談してみたんだよ。そしたらな『それはもちろんサプライズが一番だにゃー。女の子というのはみんなサプライズに弱いものぜよ』って言ってきたもんだから…」 そこから上条は説明をさらに続いていた。 だが、そこからの話は全て美琴の頭には入っていっていなかった。 今の美琴の頭には、あれだけ心配させといて実は嘘という怒りが七割、自分を喜ばせようと上条なりに頑張っていたことによる嬉しさ二割、諸々のこと一割で占められていた。 なので新しい情報をいれるなどという余裕は全くなく、まさに右から左の状態である。 ただ今の美琴に言えることは一つだけある。 そして美琴と上条の態勢は始めからあまり変化はない。 ただ始めに比べて上条が少しだけ起き上がり、彼の右手で美琴の左手を握っているぐらいの変化だ。 だから美琴は今能力を使えない。 だから美琴の持てる力全てを振り絞って、 「……といてっ…!」 「だからだな…って美琴聞いてんのか?」 「人にあんだけ心配させといて!!!謝りもせんのかアンタはあああぁぁぁああ!!!!」 「ごばあぁ!!!」 上条の頬を右から左へ美琴の全身全霊を込めた横薙の一撃が彼女の怒号とともに炸裂した。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
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嘘から出た美琴 学園都市に夕闇が勢力を伸ばし始めた頃、とある高校に通う上条当麻は、ひとりとぼとぼとと家路に向かって歩いていた。「小萌先生もひっでーよなー。こんな遅くなるまで居残りさせなくったて……くそっ、インデックスのヤツ、マジで干上がってんじゃねーだろーなぁ?」 さっきから何度も携帯を鳴らしているのだが一向に電話に出る気配が無い。 これはまっすぐ帰った方が良いかもしれない、と上条はそう考えた後、「いや待てよ。手ぶらで帰ってインデックスが待ち構えていたりしたら……」 頭の中でペコシスターの暴走モードの恐怖が鮮明にリピートされる。「不幸だ……」 上条は運命の選択に頭を抱えずには居られなかった。 だから、背後に誰かが立ったとしても気がつかないのは仕方の無い事なのだ。「ね、アンタ」「どうしよう。まっすぐに帰るべきか、寄り道して何か買って帰るべきか……」「もっしもーし?」「行くも地獄戻るも地獄」「ねえ! ちょっとぉ!」「うっわああああああああああ! 俺には決めらん――」「ねえっつてんでしょ、ごらああああああああああああああああああああああ!!」 突如として降って湧いた様な轟音と電撃が上条を襲う――が、咄嗟に翳した右手がそれらを一瞬でかき消した。「御坂ッ!! テメエは何度言えばあいさつ代わりに電撃喰らわすのを止められるんだッ!!」「うっさいわね!! どーせ効果無いんだからいいでしょ! それより何で毎回毎回私の事無視する訳!? 苛め!? もしかして私の事ハブるつもりなの!?」「いやむしろ俺がお前にハブってもらいたいわ」 美琴はその答え代わりに電撃を浴びせてから、急に態度をガラっと変えた。 頬を赤らめ、上目遣いで、両の指を絡み合わせてもじもじとしだした。「と、ところでアア、アンタに話があるん……だぁ……」「馬鹿野郎ッ!! 今電撃は止めろって……話って何だよ?」「何でまだ何も言って無いのに嫌そうな顔すんのよアンタは?」「お前が改まってした話にいい話が無いから」「ぐっ。そ、そうかもね。そうかもしれないわね!」「やっぱ悪い話なのかよ」 先ほどと打って変わった開き直りとも言える不敵な笑みに、上条の顔が一層曇った。「そ、それはアンタ次第よ!」「お、俺次第なのかよぉ?」 美琴に指差された上条の言葉の語尾が不自然に上がる。 ここまでは美琴のペース、と思いきや、「ま、まあ、お、おお、お、おち、ち……」 落ち付きなさいよと美琴は言いたかったのだが、何故だか上手く言葉が出ない。「大丈夫か御坂? 取り合えず落ち付けよ」 逆にそう言われて更に顔面を朱に染めた美琴は、「ちょ、ちょっと待って」と後ろを向いて深呼吸を、2度、3度と繰り返した後、「お、落ち着いて、きき、聞いて、ほほほ、欲しい、いい、い……」「だからお前が落ち付けって……」「い、いいからアンタは黙ってて!!」 その噛みつかんばかりの剣幕に、上条は「お、おう」とそれきり黙りこむ。 その間に美琴はもう数回深呼吸をしてから、「わ、私ぃぃぃぃぃぃ……」 と、ばねが力を溜めこむ様に体を折り曲げたかと思うと、「か、彼氏が出来たのッ!!!」 その時2人の間に衝撃ならぬ雷撃が走ったのだが、それは何時も通りに上条の右手が打ち消した。 そんな衝撃の告白も醒めやらぬまま、美琴は俯いて目をギュッと瞑って体を小刻みに震わせる。その姿は、まるで審判を待つ被告の様だ。 有罪か、無罪か――そして、そんな少女の耳に届いた判決は、「そっかそっか。うん。良かったな、御坂」「え?」 上目遣いに上条を見上げるのと、頭の上に手が置かれたのは同時だった。 そのままポンポンと美琴の頭を優しく叩きながら、「うん。良かった良かった。そっかぁ、お前にも彼氏がねえ」 感慨深げに頷く上条に美琴は「な、何も聞かないの?」と逆に問いただすと、「お前が選んだんだから問題ねーだろ? そうだ、今度そいつを紹介しろよ! な!」 急にテンションを上げる上条に、美琴は「あ、う、うん」と頷いた。 すると上条は美琴に向かって満面の笑みを浮かべると、「約束だからな!」とそう言い残して去って行った。 そして後に取り残された美琴は、何も言えないまま上条の背中を見送った。 やがて完全に陽が落ちても、美琴は呆然とその場に立ち尽くしていた。 そして、辺りに陽の光に変わって人工の光が足元を照らし始めた頃、美琴はぽてっとその場に力無く座りこんだかと思うと、「私、失敗しちゃったぁ……」と落胆の露わに呟いたのだった。 そのままとぼとぼと寮に帰って来た美琴を出迎えたのは、ルームメイトの白井黒子。しかし、この時の白井は何時にも増しておかしかった。「だたい……」「お姉様ッ!!!」 まるで待ち構えていたかのような白井のショルダータックルが、抜けがら同然の美琴の腹部にヒットする。「ごはッ!?」「お姉様、ちょっとお聞きしたい事が御座いますの」「く、ろこ……?」 妙な気迫の上に先ほどの一撃で声も出なければ力も入らない美琴。 そんな彼女をずるずると部屋に引き摺りこんだ白井は、扉に鍵を掛けるとそれを背にして美琴を見下ろした。「お姉様、わたくし聞き捨てならない噂を耳にしましたの」「な、何よ……?」「お、お姉様に、か、かか、彼、ぐほッ!」 先ほどの気迫も何処へやら、突然口元を押さえてへなへなっと倒れ込んだ白井に、驚いた美琴が駆け寄る。「黒子ッ!?」 そのまま白井を抱き起すと、燃えカスの様に生命力を失った白井が、震える手を美琴に伸ばす。「わ、わたくしはもう駄目ですわ……」「な、何を言ってるの黒子ッ!?」「わたくしの、な、亡骸は……う、海の、見える、丘の上に……」「黒子ッ、馬鹿な事言わないでッ!!」「墓碑銘には……『御坂黒子、お姉様への愛を貫き通した女』と……」「黒子?」「あ、後……、最後に熱いベーゼを……んっ、んんんっ……」 そう言って唇を蛸の様に突き出した白井の頭を、美琴は躊躇無く床に落とした。「おふッ!」 痛みを堪えて床の上をごろごろと転がる白井を見下ろした美琴は、深いため息をつくと自分のベッドにダイブした。「アンタその話何処で聞いたのよ?」「それは企業秘密ですわ」 いつの間にか復活した白井が美琴のベッドに腰を下ろす。「どぉーっせ、また初春さんにでもお願いしたんでしょ?」「いえいえ。今回の情報源は……おとと、信用にかかわりますので黙秘させていただきますわ」 その勿体ぶった言い回しに美琴はキョトンとした顔で白井を見上げた。 すると白井はオホンと1つわざとらしい咳払いをすると、「不躾で申し訳ありませんが単刀直入に申し上げさせていただきますわ。お姉様ぁ、いい加減本気でしたら回りくどい真似などせずにまっすぐに行ったら如何ですの?」 その意味が伝わるまでたっぷり一分は経過した後、「ア、アン……」 信じられないモノを見る様な眼で上体を起こした美琴に、白井はベッドから降りて向かい合うと、「お姉様」「な、何よ?」「すぐさま私服にお着替えくださいまし」「な、何……」 訳が判らず唖然としていると、白井は美琴の手を取って、「え?」 美琴が気が付いた時には空中に逆さまに浮いていた。「うわッ!?」 頭をカバーする暇も無く自分のベッドの上に頭から落ちた美琴。「い、つつつつぅ……」 柔らかいクッションの上とはいえ、受け身も取れない落とされ方をしてうめき声を上げる。 すると白井はそんな美琴の手を取って引き起こすと、「ぐずぐずしておりますと、次は裸で外に放り出しますわよ」「いッ!?」 かくして――。「仕度したわよ」「お姉様。もう少しこう、可愛らしい格好は無かったのでございますの? それでは『男』に間違えられても言い訳できませんですわ」「う、うっさいわね! 普段必要無いから殆んど実家に置いてあんのよ。で、私を着換えさせてどーするつもりよ?」 どう言う理由か撃沈していた所に、期待しないまでもちょっとは慰めてもらえるかと思った白井からの数々の仕打ち。 それらが相まってご機嫌斜めどころの騒ぎじゃ無い美琴の今の服装は、何処にでもある様なプリントTシャツに、短パン、何時ものルーズソックスと言う出で立ち。 しかも帽子を目深に被っているものだから、発展途上の身体と相まって、確かに男と間違えられてもおかしく無い。「ま、いいですわ。あの殿方も見た目を気にする様な方ではございませんし」 ため息交じりに白井が零した言葉に、美琴はギョッとした。「ア、アンタ、い、今、な、何て……」「殿方、と申し上げましたの。いえ、判り易く上条当麻さんと言い直した方がよろしいですわね」 美琴はその名を聞いても白井が何を言いたいのか理解出来なかった。 ただ、こうして着換えさせられた理由が上条に関わりがあると言うだけで、心臓の鼓動が倍も速くなる。「顔が赤いですわよ?」「う、うっさいわね。よ、余計なお世話よ」 図星を指された様な気がして咄嗟にそういい返すと、白井は何故だか悲しそうに笑って、「確かにお節介ですわよね。こうして今から敵に『塩』を届けようと言うんですから……」「え?」 『塩』とは何の話をしているのか――そう問い返そうとした時、それより一瞬早く白井の手が伸びて、気が付けば美琴は白井と共に寮の外に立っていた。「はいお姉様、靴」「あ、ありがとう」 訳も判らず靴を手渡された美琴は、取り合えずその靴を履く。 そして美琴の準備が整った所で、白井は全ての種明かしをした。「はい。それじゃあお姉様。今度は変に回りくどい真似などぜずに、真っ直ぐ殿方にぶつかって下さいまし。殿方の事ですから、きっと悪い様にはなりませんですわ」「え?」「彼氏が出来たなどと嘘をついて殿方の心を揺さぶってみようなどと……はぁ、わたくしのお姉様には不釣り合いで滑稽な作戦ですわぁ」 その言葉で全て事に合点がいった。「アンタ、知ってたのね」「ええ、まあ。夜な夜なあれほどリハーサルをされては気が付くなと言う方が無理と言うものですわ。ま、ちゃんと裏も捕りましたんですのよ」(と言う事は佐天さんの入れ知恵だと言う事もひっくるめて全部コイツにバレバレな訳ね……) 美琴は余りの恥ずかしさに両手で顔を覆うとその場にしゃがみこむ。「死にたい……」「全く……、死にたいのはこっちの方ですわ」「え?」「大事な大事なお姉様の為と思えばこそ、我が身を裂かれる思いも耐えられるかと思いましたのに……。ええい、くそッ、ですわ! 何であんな類人猿にお姉様がお姉様がお姉様がお姉様がッ!! お姉様ああああああああああああああああああああ!!」「く、黒子?」 美琴は、突然に感極まって抱きついて来た白井に捕まってしまう。 だが、ここから何時もの様な頬ずりが始まるかと思いきや、白井はすすっと身体を放すと、「いけませんわね。目的を忘れる所でしたわ」 そしてある方向を指さす。「さあお姉様、リベンジですわ」「黒子……」「常盤台一のエリート、いえ、わたくしのお姉様が負けどおしで居られる筈も有りませんですわ。さあ今一度わたくしの為、お姉様ご自身の為に立ち上がって下さいまし!!」 その言葉に美琴はコクッと頷くと走り出す。 その姿はあっという間に夜の帳の中に消えて行き、路上には白井1人が取り残された。「何ですかしら、この高揚感。まるでわたくしが告白するかのようですわ。いえ、むしろこの後撃沈したお姉様を……、いえいえお姉様が失敗など……。となればヤルのは殿方、と言う事になりますわね……」 そうひとりごちる白井の頬に不敵な笑みが浮かぶ。「相手にとって不足無し。どう転んでも勝算は我にあり、ですわよ、と、の、が、た、さん♪ うふ、ふふふふははははははははははああ!!」「ううっ。今寒気がしたけど……、夏の夜風も馬鹿にならねえなぁ」 そう独り言を呟く上条は、1人でベランダに出て夕涼みをしていた。 部屋の中ではベッドの上でインデックスが既に寝息を立てている。 無事、インデックスに襲われる事も無く食事をさせ、風呂にも入れて、自分が風呂から出て来た頃には、少女はもう半ば夢の世界の住人だった。 まだ眠く無かった上条は、そんなインデックスを先に寝かしつけた後、こうしてベランダで火照った体を冷ましていたのだ。 ガラス越しに眠る少女のあどけない顔は、上条の心にちくちくとある感情を知らせて来る。 柔らかそうな頬も、唇も、太ももも……。「(い!? いかんいかんいかああああああああああああああああん!!)」 自分の頭をぽかすかと殴りつけて雑念を必死で追い払う。「はあ……。何時まで持つかな俺……。不幸だ……」 そしてベランダに出る時に持って来た缶コーヒーを一口飲む。 甘味より強い苦みが口に広がって、上条はほんの少し顔をしかめる。 そして苦いと言えば、つい数時間前の事が頭を過ぎる。 ――彼氏が出来たのッ!!! その時飲み込んだ感情は、きっとこのコーヒーよりもずっと苦い。 とは言えそれを何と表現すればいいのか、上条のボキャブラリーにそれに当てはまる様な言葉は見つからない。「娘が嫁ぐ時? いや、妹に恋人が? あ、父親に新しい母親……うう、そんな物騒な……ナンマンダブナンマンダブ……」 そんな捕りとめも無い独り言のさ中にも、今日何度目かのため息が漏れる。「はぁ。何だろうなこの気持ち。誰かカミジョーさんに説明して下さいよ。お星さまお星さま、どーかカミジョーさんの御悩みを聞いて下さいまし」 天に向かって真剣に手を合わせる高校生がここに1人いた。「なんてな。それでどーにかなるんなら、今頃俺は幸福の絶頂だっつーの」 ところが、その時奇跡が起きたのだ。「悩みって何よ?」 唐突に声が聞えた。「え?」「だから悩みって何よ?」 上条は我が耳を疑う。 しかし、ちょっとした間に色々な体験をして来た上条にとって、不思議な事はもう日常茶飯事と言えた。 むしろ普通が懐かしい位だ。「え、悩み事聞いてくれるのか?」 天に向かってそう言うと、「聞いてやらなくもないわね」「何か横柄だな。でも、この際いいか。いや、待てよ。待て待て待て」 何やら余りに都合が良いので、上条の不幸センサーが何かをキャッチした様だ。「1つ聞いていいか?」「何よ」「御坂のスリーサイズを教えてくれ」「うっ、上から××、△△、○○……」「すげ、当ってる」「当ってるって何でアンタがそんな事しってるんじゃああああああああああああああああああああああああああ!!」「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 本日3回目の突然の雷撃に驚いた上条は、その雷撃は打ち消す事には成功したが、バランスを崩してベランダから落ちた。「嘘!?」 逆さまになった世界にそう呟くのが精一杯で、後は重力に従って路面まで一直線――とは行かなかった。 ガクンと身体が引っ張られたかと思うと、上条の体は階下のベランダに放り出されていた。「た、助かった……」 すると、逆さまになった上条の隣に誰かが降り立った。「だ、大丈夫なのアンタ!?」 先ほどのお星様と同じ声で話すシルエットに、「助かりましたお星様」「何馬鹿な事言ってんのよアンタ。私よ、わ、た、し」「へ?」 そう言われて改めて良く見た上条は、「き、君の様な男の子に知り合いは居ま――」 と最後までいい終えない内に一筋の雷撃がバチッと上条目掛けて飛んだ。「うおッ!? つかお前、御坂か!?」「正かーい」 そう言って帽子を脱いだ美琴は、髪を整えて帽子をかぶり直すと、逆さになったままの上条に手を貸して起こした。「わ、悪い。てかさっきのお星様もその後の雷撃も……」「私よ。てかさっきの質問は何!? 何てアンタ私の……」 とそこまで言って美琴は恥ずかしさのあまり押し黙ってしまう。「えと……、この間お前の鞄の中身がぶちまけられた時……」「あ、あん時か!? あんな一瞬でか!?」「いやあ、興味深い程に憶えやすい数――」 またも最後まで言わせず電撃がバシッと上条に向かって飛んで行く。「うおッ!? す、すまん!! ごめん!! マジで悪かった!! すぐに忘れますからこれこの通りご勘弁下さい!! 御坂様!! 御坂大明神様!!」 電撃を消してから、土下座に入るまでの何と素早い事か。 思わず唖然としてしまった美琴に、上条は恥も外聞もかなぐり捨てて額をベランダに擦りつける。「い、いいわよもう! 別に減るもんじゃないんだし!」 と美琴が言った途端に立ち上がった上条は美琴の両手をがっちりと握りしめ、「あ、ありがとう! ありがとうありがとう! 本ッ当にありがとうございます!!」「んなっ!? い、いいわよもう……だから放して……」「あ、悪ぃ……」 その言葉に上条が慌てて手を放すと、何故か美琴は名残惜しそうに「あっ」と声を上げた。 その声に上条も美琴も同時に赤面してしまい、恥ずかしくてお互いの顔が見られなくなる。 とは言えこのままでも居られないので、「なあ御坂」「な、何?」「どうして来た?」 すると、美琴は暫く返事を躊躇った後、「アンタにね……、話があるの……」 その余りに勿体ぶった言い方が上条の心に妙に引っかかる。「わ、悪い話じゃないだろうな?」「それは、アンタ次第……」「俺次第、か」 とそこまで言った所で、2人は同時に吹き出した。「何かあれだな」「既視感(デジャブ)」「そう。それだ!」「てか今日のやり取りだから既視感とは呼ばないわよ」「まあいいじゃねえか。お互い話は通じた訳だし」 そうして暫く捕りとめも無い話に花を咲かせた2人だったが、「そうだ! さっきの話」「ああ、あれ? もうどーでもいいんだけど。でも、手ぶらじゃ黒子が許さないわよねぇ。ああ見えて感も鋭いし……」「何だ? 白井がどうした?」 美琴はチラリと上条を見た。 相変わらずのツンツン頭も、今は少ししんなりしていて、シャンプーの香りと相まって、風呂に入ったばかりだと知れた。 ぼんやりとした顔はどこにでもいる、百羽ひとからげの高校生でしか無いのだが、「何でコイツだったのかしら……」「何が?」 と話を聞こうと少しだけ身を乗り出した上条。その寝巻の胸倉を美琴がグイッと握りしめた。「へ?」 続いて片方の脚の膝裏に器用に踵を引っ掛けると、グイッと脚を引いた。「うおわッ!?」 当然膝が折れてバランスを崩した上条は、襟首を支点に半回転しながら倒れ込む。 そして気が付いた時には、美琴の膝の上に頭を乗せて天を見上げていた。「あの時と一緒ね。違うのは……お互いの服装くらいか」「御坂……」「彼氏の話ね。あれ、嘘なの」「そっか……」「驚かないのね。それとも驚いて声も出ないとかかしら?」「どっちも合ってるかな。で、何でそんな嘘を付いたんだ?」 すると美琴ははにかんで、「聞かないで。自分でも恥ずかしいから」「そうか。じゃあ何も聞かない」「うん」 そして本当に自然に、当たり前の様に、美琴は上条の唇に自分の唇を重ねた。 ほんの一瞬、本当に触れ合っただけのキス。 そして美琴は唐突に上条を膝の上から床の上に落とした。「うがッ!?」 そして声も無く蹲る上条を尻目にベランダの柵に軽々と飛び乗ると、「今夜の所はそれで勘弁してあげるわ。明日から楽しみにしてなさい」「ちょ、おまッ!?」「バイバイ♪」 そして投げキッスを1つ残して美琴の姿はベランダの向こうに消えた。 上条は慌てて立ち上がって階下を目を皿の様にして探したが、美琴の姿所か痕跡1つ見つけられない。 その場にへなへなっと座り込んだ上条は、美琴の唇が触れた所を自分の指で触れてみた。「何ホッとしてんだ俺? これから何が起きるか判んねえっつーのに」 そしてよいしょっと立ち上がると、頭を掻きながらこう呟く。「取り合えずここからどう帰りましょうかねぇ。はあ、御坂と関わると……、不幸だ」 しかし、ニヤリと笑ったその顔に、その言葉ほど悲壮感は感じられなかった。「その宣戦布告。受けて立つんだよ短髪……」 上条を取り巻く日常は、今日も明日も明後日も、何一つ変わる事無く何時も通りの不幸(へいおん)で彩られているのであった。END
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カミヤンを探せ! 美琴は上条の部屋の前にいる。今晩上条宅でご馳走を振る舞う約束をしたためだ。右手に薄っぺらな学生鞄、左手に上条ごひいきのスーパーで購入した食料を入れたビニール袋。しかし今回は美琴の隣には白井黒子がいる。上条と美琴の関係は白井も認めていて昨夜美琴がついポロリと発言してしまい、「お姉様の手料理を上条さんだけいただくとは許せないですわ。上条さんのご自宅にあがるのも気がひけますがお姉様の貞操を守るためわたくしもご一緒しますわ。」そんなこんなで部屋の前にいるのだが一向に上条が部屋から出てこない。居候のシスターも出てこない。ブザーを何度も押しているのだが部屋から人の気配は感じとれない。「こんなに呼んでも出てこないってどういう神経してるのかしらあの馬鹿。まさかまた事件に巻き込まれてんのかしら。どう思う黒子?」「上条さんの事ですから事件絡みで見知らぬ女性と何かしら起こってるかもしれませんわね。ってお姉様!?」美琴は自分の靴を黙って見つめてパチパチと電流を放っている。「黒子?もしアンタの言っていることが正解だったら遠慮なくあの馬鹿に能力使っていいからね。」白井がビクビクしながらですの。と返事した所に、「にゃーカミヤンの部屋の前で何してるぜよ?まさか部屋をぶっ飛ばしにきてるのかにゃー?」声がする方に二人が振り向くと金髪頭、青いサングラス、地肌にアロハシャツととんでもない格好した男、土御門元春がたっていた。「にゃー、警戒しなくていいぜよ。俺は土御門元春。カミヤンのクラスメートで部屋もカミヤンの隣だにゃー。」「え?土御門って名前は・・・もしかして舞夏のお兄さんですか?」「そうぜよ。義妹なんだがにゃー。」「そうだったのですか。わたくし白井黒子と申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんですの。そしてこちらが・・・」「初めまして。御坂美琴です。よろしくおねがいします。」「にゃ?御坂ってどこかで・・・・・・・・・・にゃ――――!!常盤台のレベル5でカミヤンの彼女!!!」最後の彼女という言葉に美琴はビクッとなり、白井は「けっ」としらを切った。「そうかい。ここで御坂さんと会うなんてにゃー。カミヤンから耳に穴が空くくらいラブコメストーリーを聞いてるぜよ。」その言葉に美琴はボンと顔が赤くなる。良い彼女と言われて嬉しくてたまらない。美琴がショートしているのに気づいた白井はため息をつきながら「それで失礼ですが上条さんがどこにいるかわかりますでしょうか。」土御門は(ツインテールのこの子も舞夏には劣るがいい線いってるぜよ)と思いながら「カミヤンとは一緒に帰ったんだがいないとなれば学校に戻ってるはずだぜい。」土御門は二人の「「え?」」というリアクションを見てから「さっき俺の携帯に小萌先生から電話がかかってきてにゃー、補習のプリントを渡し忘れたから取りに来いと言われたんだにゃー。俺とカミヤンともう一人いるんだがこの三人は補習の常連ってわけで。俺も今から学校に行くし多分カミヤンは一足先に行ってるという俺の予想ぜよ。」なるほどな~と美琴と白井は納得した。美琴は上条に会いたいがために、「ご一緒してもいいですか?」と訪ねる。土御門は「喜んでだぜい。御坂さんからもカミヤンとの話聞いてみたいからにゃー。」白井はあからさまつまらない表情をしているが美琴がまんざらでもない顔をしていたのでついて行くことにした。このときまだ誰も違和感に気づいていない。上条、土御門の通う高校に三人は足を進める。土御門は質問をする度に顔を真っ赤にする美琴を見て楽しんでいる。白井は全くお姉様、わたくしには貞操を守れなかったのですねとぶつくさ言っている。すると美琴のふくらはぎあたりに何かがぶつかる。そのあたりから、「お姉様久しぶりー!てミサカはミサカは久しぶりの再会に感動してみたり。」打ち止めが御坂の足に抱きついていた。白井はすかさず「小さなお姉様が!こんな小さな頃から色々仕込めば・・・・げへへへぶごぉ!!!!」美琴の鉄拳がすかさず入る。「あなたはここで何してるの?」「あの人とお散歩してるだけ!てミサカはミサカはあの人を指さしてみる。」打ち止めが指した先には白髪で杖をつきながらこちらに歩いてくる少年がいた。「よお土御門にオリジナル。お前らが仲良く歩いてるってよォ、デキてんのかァ?」「何平和ボケしてるにゃー一方通行。御坂さんはカミヤンの彼女ぜよ。」「カミヤン?あの三下かァ。」「お姉様、土御門さんが一方通行と呼んでますがまさか・・・」「うん。でも何もしてこないわよ。この子もいるしね。」そう言いながら美琴は打ち止めの頭を撫でる。「お姉様がもってるビニール袋私が持ってあげる!てミサカはミサカはいい子だとアピールしてみる!!」「えぇ?嬉しいけどあなたには重いわよ?」「大丈夫!疲れたらこの人が持ってくれるから。てミサカはミサカは袋を受け取った矢先あなたにわたしてみる!」「チッ、クソガキが。」結局美琴は悪いと思い白井に持たせた。こうして右から土御門、一方通行、打ち止め、美琴、美琴の後ろに白井、と並び上条がいるであろう高校に足を進める。土御門と一方通行は真剣な顔で何やら話し合い、美琴と白井は打ち止めのたわいもない話を聞いてあげている。一方通行と美琴は打ち止めの手を握ってあげてる。なんとも奇妙な光景だ。「お姉様、何でわたくしがこの重い食材を持たないといけないのでしょうか。」「あら珍しいわね、いつもだったら奪うように持とうとするのに。それともこの子に持たせるつもり?学園都市最強のレベル5に持てと言えるわけ?」「・・・・なんでもありませんの。」やれやれと息を吐く白井。一番離れている土御門がふと思いついたように「にゃー白井さんだったかにゃ?御坂さんはカミヤンと付き合ってるが白井さんは彼氏とかいないのかにゃー?」「わたくしはお姉様がご一緒なら殿方なんか必要ありませんの。しかしお姉様が上条さんとお付き合いを始めてからお姉様はわたくしに目もむけてくれませんわ。」あのねえと美琴は言うが白井の耳に入らない。「そうかい。御坂さんにも振り向いてもらえないとは完全にフリーだにゃー。白井さんにお似合いの奴がいるんだけどにゃー。」「結構ですの。」白井はぷいとそっぽを向いた。この時点で違和感を感じたのはまだ白井黒子だけ。高校に到着。打ち止めがみんなと学校に入りたいとリクエストして土御門はあっさりOKを出し、こそこそする素振りも見せず、どうぞお入りくださいにゃと正面玄関から一方通行、打ち止め、美琴、白井を招き入れた。打ち止めは学校だ!学校だ!と大はしゃぎで下駄箱のドアをバタバタ開閉やっている。美琴は(ここが当麻の学校・・・)とポワ~ンと校舎にうっとり。一方通行と白井はくだらんと言わんばかりに無表情。すると5人に声をかけてくるエセ関西弁の声が。「土御門やないか!お前も小萌センセーのプリントもらいにきたんか?早速小萌センセーに怒られたで~」くねくねしながら土御門に報告してるのは青髪ピアス。土御門除く他の4人はうえ~とした表情をしている。「青髪、カミヤン知らないかにゃー。」「俺が職員室行った時に会ったで。携帯を机の中に忘れてたとか言って多分教室にいるはずや・・・・てなんやねん土御門!こんな可愛い子ぎょーさん連れて!ちょっとお姉さん綺麗やし可愛いでー。ツインテールの子もペタペタのスタイル、捨てがたいわ~。一番ちっこいお嬢ちゃん、お名前はなんて言うねや~?」打ち止めは怖く感じたのか、一方通行の後ろに隠れ、美琴と白井は何喋ってんだこいつ・・・と呆然として動けなかった。すると青髪の前に一方通行が立つ。右手で首筋のチョーカーに触れたと思うと同時に左手でぽんと青髪の背中を叩く。次の瞬間強烈な爆風が起こり、美琴達の視界が回復した時には青髪の姿はなかった。あれ?と数秒不思議に思っていると土御門が笑いながら指を指す。正門のところで青髪が伸びていた。「ちょっと!暴力はだめだってミサカはミサカは怒ってみる!」「うるせェな。お前があいつに触れられなかっただけでも感謝しやがれ。」「・・・・・白井さん、今のがお似合いのやつだったんだけどにゃー。」「わたくしはあんな変態さんには興味ありませんの。」それを聞いた美琴は苦笑していた。「さて俺は職員室に行ってくるからみんなはカミヤンの所に行ってくれ。教室は最上階に行けばすぐわかるにゃー。」そう言って土御門は職員室の方へ去って行った。「チッ、面倒くせェ。とっとと行くぞ。」先頭に一方通行が階段を上って行く。おどおどしながら一方通行について行く打ち止め、美琴、白井。一方通行がスタスタと上るため三人はワンテンポ遅れて上る。一方通行が二階に到着し、三階に上ろうとしたとき、ドドドドドと階段を猛スピードで降りる音が聞こえ一方通行と衝突する。完全にノーマークだった一方通行は吹っ飛び、廊下に倒れる。ぶつかった相手はもちろん上条当麻。美琴達は二階に着いたら一方通行が倒れてたもので驚きを隠せない。「すみません急いでいたもんで・・怪我はなかったですかっっっっっって一方通行!!それに美琴もなぜ?」「三下ァ・・テメエはやっぱり俺の手で殺されたいよォだなぁぁぁぁ!!!くこけかここけき・・・・・」「ななななな・・・上条さんは何回も死にかけてますしあなた様からも殺されかけたし・・・ごめんなさいでしたあああ!!!!」土下座モードに突入する上条。「暴力はいけない!てミサカはミサカは再びあなたに訴えてみる!」「・・・・チッ、まあ目の前で彼氏殺されるのは見てらんねェだろ。なあ彼女ォ。」ニヤニヤしながらチラっと美琴を見る一方通行。美琴は吐き捨てるように言った。「アンタは肝心な所がちっとも変わってないのね。」上条と一方通行はお互いどっちに言っているんだろうど考えた。土御門と合流した上条達は学校を後にした。(正門で伸びていた青髪ピアスに上条は驚いていたが特に気にしなかった)「悪いな美琴。わざわざ迎えにまで来てもらって。」「ホント、土御門さんと会わなかったら私と黒子は今の時間まで玄関前で立ち往生だったのよ馬鹿。」「私と黒子って、白井お前も部屋まで来たのか?」「お姉様の貞操を守るのがわたくしの使命ですの。」「さいざんすか・・・」「カミヤ~ン、今日は舞夏がいないし一人、だからご一緒してもよろしいかにゃ~?」「そういうのは美琴に聞いてくれ。料理作ってくれるのは美琴なんだからよ。」「御坂さ~ん。というわけでどうかにゃ~?」「(本当は当麻と二人でアーンとかして食べたかったけど・・今日は黒子もいるし仕方ないか。それにみんなと食べると楽しいだろうし。)喜んで。学校までご一緒してもらったのでお礼といってはなんですがどうぞ。」ニコっと答える美琴。「感謝するぜよ御坂さん!カミヤン、いいお嫁さんゲットしたにゃー。デルタフォースは解散になってしまうにぜよ。」美琴はお嫁なんてあはははと言いつつ真っっっっっ赤になっている。「お姉様ったらなんでもすぐ顔に出ますのね。プククク・・」そんな会話を聞いていた打ち止めがふと思いついたように、「私も今日あなたに料理を作ってあげる!てミサカはミサカはやればできる子をアピールしてみる。」「そうかい好きにしろ。不味いモン食わせたらテーブルひっくり返してやっからな。」「いざとなったらヨミカワに手伝ってもらうから大丈夫!てミサカはミサカは腕を組みながら晩ご飯の献立を考えるふりをしてみる!」「考えるふりかよ・・・・」一方通行と打ち止めと別れ4人は上条のマンションへ。エレベーターに乗った。密室の中。そこで全員違和感を感じ始めた。上条の部屋の前に着いた時、最後にエレベーターを降りた白井が悲鳴をあげる。「どうしたの黒子!?」「・・・お姉様・・今日は何を作るつもりでしたの?」「えと・・ハンバーグとマグロの刺身を・・・それがどうしたの?」「でしょうね。さっき初めて中身を見たのですが即座にわかりましたわ・・・」「だからそれがどうしたっっっう!!!!」白井が上条並みの負のオーラを出している。そして袋からも負のオーラが。「この挽肉!!魚の切り身!!!冷蔵庫で保存せず長時間日にあてるとどうなるかおわかりでしょう!!!」バッと挽肉の入ったパックを取り出す。取り出した瞬間異臭が広がる。「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」「この異臭はこの類人猿の脳そのもの!!あなたにはこれで十分ですの類人猿がああああああ!!!!!」ひゅんと白井が消えて次の瞬間、上条の頭上に現れ、手に持っていた挽肉のパック(綺麗にラップは剥がされてる)を上条の顔面にスパアアンと投げつけクリーンヒットさせる。「ぐぼぁ!?なんで俺なんだよ!?」「そもそもあなたが学校に戻らなければこんなことしませんでしたわ!」プチ戦争を目の当たりにしてる美琴はあたふたして何もできない。土御門は、「なんだか不味いことになってるぜい。ここは逃げるが勝ちだにゃ!」こそこそと自分の部屋に逃げようとしているのを白井は見逃さず、「類人猿の友も同じ類人猿!!金髪猿もこれをくらってなさい!!!」テレポートしたマグロの切り身が土御門の顔面にヒットする。「にゃあぁぁ!!カミヤンといるとろくな事起こらないぜい!不幸だにゃーーーー!!!」翌日、美琴は珍しく上条に謝り倒した。
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オリジナルじゃないけどママでもない! 「だからお願いだって―」「だーめーでーすー!」「お願い―!」「これ以上居候は増やせません!」『大事な話がある』と、アイツに呼び出されて美琴は初めて上条の部屋に来た。『まさか告白!?』なんて乙女らしい妄想をしていたが、現実はかけ離れていた。「とりあえず離れてくれませんかね!?」現在この馬鹿にひっついて子供の様に駄々をこねている、自分と似たような(というかほとんど同じ)顔立ちに、アイツの様な黒髪に垂れ目の少女は誰なんだろうか。「アンタがここにいるのはいい。この馬鹿にひっついているのも今は勘弁してあげる。でもアンタは一体どこの誰よ?」アイツにひっつくのをやめ、少女はうーん、と考えてから言った。「元実験体。現浮浪者。これだけ言えばいいかな、オリジナル」オリジナルと、この少女は何の迷いもなく言った。だが妹達との相違点が多すぎて、自分のクローンだと言われても実感がわかない。少女は淡々と話しを続ける。「最初はオリジナル憎さに研究所ぶっ壊して脱走したんだけどさ、どうやら良い人みたいだし、復讐とかどうでもよくなってさ。でも帰るとこもないし、こうやって泊めてくれるように頼んでるわけ」もしかして、いやもしかしなくてもとんでもなく不穏な事をこの少女は言っている。しかし、少女がやけに明るいせいか、いまいち『ヤバい事』という感覚が持てない。それはこの馬鹿も同じだろうか。「ねー、オリジナルからも説得してよ!」「っは!ダメ!絶対ダメ!!」「えー、何でさ。まさか嫉妬?」「なっ!な、なな、何言ってるのよ!!そんなわけないじゃない!」だがどこからどう見ても(上条以外は)嫉妬と(上条に引っ付けていいいなーという)妬みにしか見えないのだ。このままではなし崩し的にこの馬鹿とこの少女が同居してしまう!と美琴は抵抗作戦を展開する。「じゃあ私が部屋を借りてあげるからアンタ、そこ住みなさい」「えー、私料理とかしたことないし。だから料理の勉強も兼ねてってことで」「しばらくは私が世話をしてあげるから!アンタもそれでいいでしょ!?」「え、あ、はい!」2人の言い争いはこの状況に追いつけていない上条の返事で幕を閉じた。むぅ、と頬を膨らます少女を見て美琴はため息を付いた。「まさか、また私のクローンが作られるとはね。一体何を目的にしてたんだか。後で調べとくか」「クローンというか、私は御坂美琴と上条当麻のDNAを融合させて作られた存在だから、2人の子供とでも言うべきなのかな」「なっ!?」「お、俺と美琴の子供!?」「元々、一度は絶対能力者に近づいた超電磁砲と、未だに究明不可能な幻想殺しを配合させてどんな能力者が生まれるかって実験だったんだけど、生憎と私は大能力者。それでも諦めきれないらしく、ずっと実験三昧だったのよ」 子供……アイツとの子供。えへへへへへ。と意識がどっかに行っている美琴とは逆に、上条はとりあえず落ち着いて話しを聞き、疑問が生まれた。「でも、俺はDNAマップなんて提供した覚えはないし、研究所なんて近づいてもないぞ」「我が学園都市の科学力は世界一ィィィ!教室から上条当麻の髪の毛を回収するなど造作もないわァァァ!!ってね」「…………」学園都市だから。と言われたら納得するしかないという悲しい現実だ。研究所はこの少女が破壊したらしいからひとまずは安心していいだろう。この少女も成長を促進させているはずなので妹達が世話になっているカエル顔の医者に見てらもうべきだと上条は考えた。「ま、まあ、しょうがないから今日は泊ってもいいよ。でも明日は病院に行ってから部屋探しだからな」「ありがとう。でも病院?」「学園都市にいる妹達の世話をしている医者がいるんだよ。俺もちょくちょく世話になってる」「ふーん。てことはオリジナルも付いてくるの?」「当たり前だろ。嫌なのか?」「別にそんなことないわよ」まー、それよりも。と少女は美琴の方を見て、「あれは大丈夫なのかねー」未だに美琴の意識遥か遠くにある様だ。「おーい、どうした御坂?」「な、名前は麻琴とかどうかしら!?」何をとちくるったこと事を言っているのだろうかこの娘は。まさか自分と美琴のDNAを融合させた子供の様な存在という話に影響を受けたのか。(しかし、麻琴か)当麻の麻と美琴の事を合わせた名前。やはり本当に美琴との間に子供が出来ればあの少女のようになるのだろうか。その時には自分達の特徴を併せ持った子供には、その名前も似合うかもしれない。(……っは!何を考えてんだ俺はー!!)美琴につられて自分まで変な事をかんがえてしまった。今自分はどんな顔をしているのだろうか。頬が熱い。「……何やってんのアンタら。でも麻琴かー。もらっとこうかな」「ダメ!それは私達の子の名前よ!!…………アレ?え、アンタ……まさか、聞いた?」次第に美琴の顔が青ざめていく。上条は何も言わずにコクリと、首を縦に振った。青くなったかと思えば、今度は真っ赤に染まっていく。そしてバチバチと前髪から火花を発する。「……ふ」「おい、まさか」「ふにゃー」バチバチバチ―!!美琴を中心に電撃が放たれた。上条が右手で防いだお陰で少女と電化製品は難を逃れたが、美琴が上条の方に倒れこんだ。慌てて抱える上条だが、支えきれずに床に背中をぶつけた。「ってー。おい、大丈夫か御さ――」美琴の意識はないが、近い。顔が近い。少し頭を動かせばすぐに触れられるほどに。動こうにも動けない。(というか、前髪から良い香りが)そんな事を考えていると、美琴の向こう側。DNA的には自分達の子供の少女の顔が見えた。その顔はまるで悪戯を企む子供の様であった。「えい」ポン、と美琴を押した。それだけだ。それだけで美琴の唇は、上条の唇に押しつけられた。「え――あ、――――はい!?」理解できない。理解したくない。柑橘系の甘い香りがした。潤った美琴の唇が直に触れた。さまざまな考えが上条の中で生まれ、脳内を埋め尽くしている。「ふ……」そして、「ふにゃー!」ショートした。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/――ふたり―― 変化を兆す初詣[誓う守り] 大晦日(夜) ~上条宅にて~ 上条当麻は実家のほうで年を越すことにしていた。 インデックスは小萌先生と姫神とで新鮮食い倒れ旅行に行ってしまったので、帰省することに決めたのだ。 今ごろ年中腹ペコシスターは旅行先の調理場と小萌先生の財布を阿鼻叫喚に渦に叩きこんでいることだろう。 初詣は家族そろって日付が変わる頃に行くことにしていて、外出までの空いた時間はリビングでグータラしていた。 今こそ不幸生活に終止符を!今週のこの時間からは《とある幸福の上条日記》が始まるのですよ~といった具合に。 そんな平和を満喫していた上条を嘲笑うかのように携帯電話の着信音が鳴った。 電話主の名前は 御坂 美琴。 『もっ、もしっ、もしもし?』 取りあえず切る。 『ちょっとアンタは!何勝手に切っ』 気のせいと思い切る。 『人の話を聞』 電源を切ろうかと考えていたところ… 「あらあら当麻さん。どうしたのかしら。さっきから様子が変よ?」 母、上条詩菜に心配されてしまった。やはり着信音とバイブレーションは幻聴と幻覚ではないらしい。 まさかの番組打ち切りっ!?まだ一話なのに殺生な!と現実逃避してみるがまったく着信は止まない。 観念して電話に出るしかないようだ。 「何か用かビリビr『いいかげんにしろぉぉおおおーーーッ!』」 興奮と怒号により荒くなった息を整える美琴と、耳元で叫ばれたので聴覚が麻痺した上条。 お互いの事情で電話は通話状態のまま一時中断された。 『アンタ、あれよね。以前から思ってたけど一度耳鼻科に行ったほうがいいんじゃない?』 「すいません」 『なんだったらこの美琴先生が直々に治してあげましょうか?コレで。さぞかし風通しも良くなるんじゃない?』 「ごめんなさい!それだけはご勘弁を美琴様ぁーー!」 ジャラジャラという音を聞いて、上条は電話越しに土下座モードに移行する。 その様子を見ていた詩菜は何か感じてしまったのか、 「あらあら、今の当麻さんに激しくデジャビュを感じてしまうのは何故かしら。 一体どこのどなたに影響を受けてしまったのでしょうね、刀夜さん?」 この問いに父、上条刀夜もごめんなさい、と息子同様になるしかなかった。 そんな上条夫妻はさておき、不幸センサーをビンビンさせながら上条は用件を尋ねる。 「それで何の用だ?ビリビリ」 『ビリビリ言うな!それはそのぅ…アンタと…一緒に…今夜初詣に…』 「初詣?いや上条さんは先約がありまして…」 『…へ?』 「聞こえなかったのか?だから先約があるって。あ、なんだったら一緒に行くか?」 『…』 先約と表現するも単に家族で出かけるだけなのだが、しかしてこの物言いが勘違いのもとになってしまう。 無意識に出てしまった言葉なので上条も気付かない。 どうしたービリビリ?、と続けようとしたところを詩菜が遮った。 「当麻さん、お友達からのお誘い?」 「うん。ほら大覇星祭のときに会った常盤台中学の」 友達ではないよなーあれ?御坂とは傍から見たらどうなんだろーと思いながら返した。 「私たちの事は気にしないで、行っても大丈夫ですよ」 詩菜は事情をどこまで察したのか、ここにはいない誰かさんに救いの手を差し伸べる。 しかし簡単にいかないのが世の常。刀夜のデリカシーの無さが妻に向けられた。 「いいのかい?母さんいろいろ準備してたみたいだけど…」 本人は愛する妻を気遣ったつもりなのだが、妙な気遣いが女の子の気持ちをスルーすることに結婚しても学習していないらしい。 「刀夜…さん?」 言葉で表現しにくい黒いなにかを発しつつある妻に危機を感じたのか、刀夜はいつものようにDOGEZAする。 「友好関係を深めるのも大切ですよね父さんたちのことは気にせず行ってらっしゃいだからお願いしますから許して下さい母さん!」 またもやいちゃつき始めた両親を尻目に、上条は美琴に行ける旨を伝えようとするが… 「あれ?切れてる」 ________________________________________________________________________________ ~御坂宅~ 断られるかもしれないことを御坂美琴は予想していた。 (『初詣?いや上条さんは先約がありまして…』) 家族で行くなら家族と行く、そう答えると考えていたのでまさか先約と言うとは思わなかったのだ。 誰と行くのかを聞けば良いのだけれど、他の言い回しを考えていなかったのでついフリーズ。 「はぁー」 落胆してしまうのは避けられない。 成功したらと誘う前からいろいろ想像(妄想とも言う)していた予定が消えてしまい、負の感情に苛まれていく。 先約ってことは他の女と? まさか現地妻がいるのだろうか? 普段のスルーっぷりや周りにいる美少女の多さから鑑みるに既に心に決めた人がいてもおかしくはない。 あのシスターなのだろうか? 彼の両親とも先に知り合っていたようだし夏は一緒に海に行ったらしい。 もう付き合いも公認なのか?既に婚約!?結婚届け!?学生結婚!?新婚旅行!? 先ほどからやたら出てくる[婚]の一文字に惑いながら思考が泥沼と化していることに気付いていない。 そもそも[他の女]という単語が出るあたり若干のヤン化が始まっていることに自覚があるのだろうか。 でも…ここは外でそれに… 上条当麻は記憶喪失だ。曰く、約半年ほど前に記憶を失いそれ以前のことを覚えていないとの事。 ならば現地妻説は薄れるはずだが、もしかしたらという考えが不安を捕えて離さない。 (「不便だけどなんとかやっていける。それに事情を知ってる奴が一人でもいると心強いし、御坂と話すときは気が楽だしな」) 記憶の件は偶然知り、彼に尋ねてそんな風に答えてもらった。 記憶喪失という深刻な事態であるはずなのに、それでも笑っていた彼を思い浮かべる。 すると、必要以上に美化された当麻氏を回想してしまったせいか頬が紅潮し、恋する乙女のソレへと変貌していく。 最近はいつもこうよね… 上条への思いが恋だと自覚して以来、彼のことを考えるたびに心がぐるぐるする。 素直になれないが故に偶然を装ってでしか話かけることができず、彼の姿を探して街をぶらつく自分にいらいらしていた。 それでも彼と日常を過ごせた時は心がふわふわする。 具体的に言うなら、出会えたとき、無視されずに楽しく会話できたとき、またなと別れ際に声をかけられたときなどだ。 しかし、別の女性とそんな時間を楽しそうに過ごしている場面を見ると心がずきずきする。 アイツはどうなんだろう… そのとき携帯からの着信音が彼女を現実に引き戻した。 電話主の名前は 上条 当麻。 彼からの連絡はわかりやすいよう着信音を特別にしていた。 もしこれが別の人からだったら気付かないところだったかもしれない。 携帯を震える手で掴み、深呼吸して、通話ボタンをプッシュ。 「先約があるんじゃないのアンタは」 『いきなりだなオイ』 全くだ。いきなりすぎる。アンタはいつもそうだ。 「なによ」 『初詣行くんだろ。何時に何処にいけばいいんだ?』 あれ?先約はどうしたの? 「…いいの?」 『いいもなにも誘ってきたのはお前だろ』 これはつまり…デート出来るってことよね? 「ええっと、ちょっとまって、時間!そう時間確認するからっ!」 『おーい落ち着けー』 無理だ。落ち着けるはずがない。他でもないアンタとなんだから。 「取りあえず後でメールするから、だからっそのっあのっ」 『?』 「あっあっありがっ」 『さっきから変だぞ』 誰のせいだ誰の。 「なんでもないっ!」 『じゃあ切るな』 電話が終わり、またもや自分に落ち込んでしまう。 どうしていつも素直になれないのだろう。 しかもありがとうの一言さえ言えないなんて。 「はぁー」 ため息を吐く。でも、ちょっと前のソレとは込める意味が違う。 「急に無理言って誘ったのに…ありがとって言いたいのよ。ばかっ」 結局、自分の都合に合わせてくれた。先約よりも自分を優先してくれた。その事実に、彼の優しさに、悶えてしまう。 「ありがとぉってぇ~♪言いたいのよぉ~♪ばかぁ~♪でもぉ~♪そんな当麻がぁ~♪だいちゅきぃ~♪」 まるで[ツンデレ]から[デレ]だけを抽出し濃縮したような言葉を聞こえてきた。 びっくりして振り返るとそこにはニヤニヤしながらこちらを見ている母こと、御坂美鈴が立っている。 ご丁寧に悶えているところまで再現しているのは余計だろう。 「ちょっとなに聞いてんのよ!いったいいつからっ!」 「いつからって『それはそのぅ…アンタと一緒に今夜初詣に…』から?」 「ほとんどじゃないのよっ!」 声をかけたのに無視したのは美琴ちゃんでしょ?と言いながら何やら木箱を差し出してきた。 しかも今度はニマニマしている。 「それはそうと美琴ちゃん、ここに初詣デ―トに必要なものがあるんだけどどうする?」 ________________________________________________________________________________ 元旦 ~某神社にて~ 「っつーか、人を呼び出しておいて本人いねーのかよ」 日付が変わったばかりの時間なので外は寒い。 少し厚めのコートとマフラー、そして手袋などの防寒具を用意したが寒いものは寒いのだ。 不幸だ、とため息をついて上条は辺りを見回すが約束の相手はまだ来ていない様子。 境内は参拝客で賑わっており、あの中に入らないといけないのか、と不満をこぼさずにはいられない。 理由その1 上条当麻は不幸体質であり人ごみは鬼門だ。 気付いた時には財布を落とし、注意はしていても誰かにぶつかり因縁をつけられる、などなど。 もっとも人ごみの有無に関わらずトラブルを起こすことに今は言及しない。 理由その2 地域別による温暖と寒冷の格差現象。 カップル地方には比較的暖かい陽光が降り注ぎ、より過ごしやすく愛を育む一日になるでしょう。 ロンリー地方はカップル地方からラブラブ前線の影響により砂を吐きたくなり、外出を控え部屋の隅で膝を抱えたくなる一日になるでしょう。 気象予報士がいたらそうコメントを残すに違いない。 なおラブラブ前線は停滞しておりカップル地方に引っ越すしか対応策はないので悪しからず。 「ごめーん、着付けとかで遅れちゃった」 その声を聞いて舌打ちしたくなる。また格差が生じてしまったらしい。 「あけましておめでとうって、なに一人でブツブツ言ってんの?」 やはりこの右手は異性との縁まで打ち消してしまうのだろうか。 そもそも神の奇跡やら何やら打ち消してしまう能力者が参拝するのはおかしい気がする。 「ちょっと?聞こえてる?」 女の子の容姿はレベルが高いらしい。あの娘マジ可愛くね?的な男性諸君のつぶやきが聞こえてきた。 でもそんな人と縁があるわけねーよなーと思った自称駄フラグ建築士上条当麻は―― 「不幸だ」 ――と言ってしまった。 瞬間、上条さんの周りの温度が下がる。 「人をさんざん無視しておいて…」 ポツリと言った声に聞き覚えがあったので振り返ると 「あれ?なぜ汗が噴き出るのが止まらないんでせう?」 そこには綺麗という言葉が似合う少女がいた。 「慣れない着物とか下駄とか苦労してたのに…」 顔は俯いていてよく見えない。 「もしかして…」 けれど彼女から発せられる怒気やら電気やらには覚えがあって… 「終いには…そんな女の子に向かって…不幸だとかどういうことなのよゴラァァァアアアーーーッ!!」 《とある幸福の上条日記》は製作者の事情により《とある不幸の上条日記》に変更したようだ。 雷神様の怒りを買って約一時間後。 そこにはぎこちなくもカップルに見えなくもない二人がいた。 「ちょっと歩くの速いって。下駄なんだからもっと気を使ってよ」 「おぅ」 手をつないで歩いてはいるものの、ガチガチに緊張している様が台無しにしている。 「ちゃんと聞いてるのって、きゃっ!」 「うわっ御坂っ!」 美琴がつまずいて転びそうになるのを上条が抱きとめる。 「ありがと…」 「おぅ」 このやり取りも通算5回目なのだが全く変化がない。 上条は美琴を抱きとめる度に彼女の柔らかさや香り、濡れた上目づかいにやられそうになった。 しかも美琴も恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてプルプル震えている。なにこの可愛い生き物。 今の美琴は色々とヤヴァイ。 普段とは異なった格好に違う一面を見ている気がする。 いつもなら彼女は彩度の低い制服姿だっただろう。 今は違う。 艶やかな赤い生地に気品のある刺繍の入った着物。でも不思議と派手な印象は無い。 整った顔立ちには必要無いと思っていた化粧が施されていた。 その容貌は、中学生と表現するには大人過ぎる。 そんな存在に今の状況を加えれば、動揺と緊張で固まるのは避けられない。 いつもの彼女に可愛いだの綺麗だのと意識したことは無かったはずだ。 だけど今はどうだろう? 込み上げてくるなにかを押し戻し、いつも通りに振舞おうとするも上手くいかない。 「(どうしてこうなった…)」 上条は事の始まり思い出す。 雷神様を怒らせてしまい、なだめるために上条は今までの経験を総動員して対処にあたった。 単に土下座スキルを全開にしてひたすら謝っていただけなのだが… なだめるために使うスキルが土下座しかない自分の情けなさに泣きたくなる。 それでようやく怒りが静まったと思ったら―― 「あけましておめでとう」 「あけましてまことにめでとうございます」 「新年早々アンタは私を怒らせたわよね?」 「その通りでございます」 「不愉快な思いをさせたわよね?」 「面目次第もございません」 「じゃあもちろん一日中言うことを聞くのよね?」 「それはさすがに…」 「 聞 く の よ ね ! ! ? 」 「もちろんでございます姫!」 理不尽な気がするんだけど何故だろうと惑う上条をスルーし美琴は続ける。 「まずアンタは今日一日私の…かっかか彼氏役なんだからね!」 「はい?」 突然の彼氏役任命の儀に呆気にとられる上条。 この流れにはどこか覚えがある。 「ナンパ避けとか色々あるでしょっ!察しなさいよ!」 「あー」 どうやら上条の不幸センサーに曇りは無いようだ。 呼び出しに応じた事を後悔するがもう遅い。 「というかアンタに拒否権は無いのよ!黙って言うこと聞けばいいの!」 「はぁー、ふこ」 不幸だ、と言いそうになるのを止める。 同じ過ちを繰り返せば今以上に重いペナルティーを課せられるだろう。 「じゃあ…はい」 美琴はおずおずといった感じで上条に手を差し出してきた。 「あのぅ…美琴サン?この手は一体なんでせうか?」 「今のアンタは私の…かっ彼氏なんだからちゃんとエスコートしてよっ!」 そんなこともあり上条は美琴と手をつないで寄り添いながら歩いているワケだ。 人ごみも酷いしはぐれると危ないもんな、と自身を納得させ、隣にいる未確認電撃物体に目を向ける。 (俺も結婚できたらこんな風に奥さんの尻に敷かれる生活になるんかね――) 漠然と考えながらまだ見ぬ未来に上条は想いをはせていた。 ________________________________________________________________________________ 上条が思考をどこかに飛ばしていたころ美琴も出陣前に母から言われたことを思い返していた。 「でも初詣に誘うぐらいで美琴ちゃんも大袈裟よね~♪」 「うっさい!」 余計なお世話と言わんばかりの美琴。 「付き合ってるんだからもっと素直にならないと損するわよ?」 「つっ付き合うなんてそんなっ!」 「嘘っ!まさかまだ付き合ってないの!?」 美鈴は美琴に驚愕の視線を向けてきた。 「ッ~~~!!」 「あのねぇ。恋心を自覚したのがつい最近ってわけでもないんでしょ?」 娘の奥手っぷりに呆れ顔で美鈴は続ける。 「一端覧祭とかクリスマスとかイベントあったでしょうに…」 「それは…全然会えないし…連絡も取れなくて…」 美琴も上条と親密になろうとしていたのだが、そのイベントやらの準備で忙しくなかなか会えなかった。 仮に会えたとしてもツンツンしてしまったり、意識が吹っ飛んだりとコミュニケーションになっていないという悲劇。 「どーせ素直になれなかっただけじゃないの?さっきの電話のように」 図星を突かれて何も言えなくなる美琴に美鈴は追撃する。 「彼、もてる感じだし?このままじゃ他の人に奪われちゃうわよ?」 その言葉に顔面蒼白。心当たりがありすぎるのだ。 美鈴は取りあえず茶化すのを止めてより真摯に問いかける。 「初恋なんでしょ?」 「…うん」 「好きなのよね?」 「…うん」 「自分と向き合えないクセにそれを理解しろってのは、恋に破れる臆病者よ。後悔したくないなら彼と過ごす一秒を大切になさい」 そんなありがたい言葉をいただいたのに開幕からつまずいてしまった。 そしてそう在りたい関係を形だけとはいえ命令する始末、母に申し訳なさすぎて泣けてくる。 しかし彼はこんな扱いを受けて不満は無いのだろうか? 偽海原の件のときはそっけない感じだったのに、今の彼がそれと異なるのは気のせいではないはずだ。 (ちょっとは意識してくれてるのかな…) また意識が飛びそうになり、必死に耐える。 夢想するのは帰ってでも出来るのだ。今は目の前の彼に集中しよう。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/――ふたり――
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例えばこんな1月31日(記念日) 1 1月31日 授業終了後―――とある高校のとある教室。今日は珍しく、デルタフォース事クラスの3馬鹿、上条・土御門・青ピの3人を含めて誰も補習が無い日である。即ち、担任の小萌先生と触れ合えないなら長居は無用とばかりに青ピは既に帰っていた。しかし、教室には珍しく何やら悩んでいる様子の土御門元春が居た。 気になって声をかける。「土御門、お前がそんなに悩みこんでるなんて珍しいな。 どうかしたのか?」「いや実は… 今日が1月31日だから悩んでるんだにゃー。」「1月31日? 今日って何かあったっけ?」課題の提出日でもない。 かと言って、どこかで何かのイベントがあった訳でもなかった気がする。答えが見つからず、頭にハテナマークを出したまま上条も考え込んだ。「カミやん、ひょっとして知らないのかにゃー? 1月31日は『愛妻家の日』なんだぜい。」そう。 1月31日は英語のI(アイ)と、数字の語呂合わせの31(サイ)にかけて「愛妻家の日」とされていた。その日は、既婚男性が妻に日頃の感謝と労いの言葉をかけると、日本は少し平和になるかもしれない。 という思いから提案された日である。だが学園都市はその名の通り学生が中心の都市だ。 勿論、教職員を始めとして大人もそれなりには居るのだが、数は圧倒的に少ない。普通であれば、学生にはそんな話は無縁である。だが、ノリの良いとある男子学生が「みんな『愛妻家の日』って知ってるか? 1月31日は実は、既婚男性が妻に感謝する日なんだぜ。 けど、俺はこの日に彼女への想いや日頃の感謝を改めて伝えたんだ。 そしたら、マンネリ気味だった仲が再びアツくなったんだ!」などと、海外の通販番組に出てくるセールスマンよろしくその際の軽いレポートを含めて書き込みをした。すると怪しい書き込みが逆に受け、1月31日だけでなく「オレもやってみた」と言う者が徐々に出だして主に彼女が居る男子生徒に広まったのだった。「そうなのか? 知らなかった。 …でも、『愛妻家の日』って言っても、俺ら学生なんて結婚してる奴なんてそうそう居ないだろ?」話を聞いた上条はありがちな反応を示す。 「愛妻家の日」自体、一般的には余り有名でないので無理も無いのかもしれない。しかし土御門は上条の反応を想定していたかのように返事をした。「それだからカミやんはダメなんだにゃー。 『愛妻家の日』ってのは、別に奥さんに愛してると言うだけじゃないんだっつの。 それに、お前も独り身じゃなくて例の超電磁砲(かのじょ)と付き合ってるんだろ? カミやんなら、どうせ常日頃から色々と世話になってるんだろうから、偶には労いの言葉でもかけてやれ。 でないと、逃げられちまうぜい?」逃げられてしまう、という言葉に反応したのか、上条の反応が一瞬だが止まる。「で、でもなぁ… 急にそんな事言われても、いざ言うとなると言い出し難いと思うぞ?」何の脈略も無くそんな事を言う自分。 …を想像して寒くなる。「いきなり言えれば良いが、流石にそんな事は無理な場合が多いぜい。 だからこそ、すんなり言えるムードってもんを作って言い易くするんだにゃー。」だからお子様は、と言わんばかりに土御門が右手の人差し指を揺らしながら、チッチッチ…と軽く舌打ちしてきた。彼女が居る、という観点からすれば自分の方が先輩のハズなのに、という疑問が沸いたがそっと横へ置いておいた。土御門が言いたい事が上条にも何となく分かる。 だが、そういった方面は勉強以上に苦手な上条は自分では良い作戦は思い付かなそうだ。「なる程なー。 で、土御門は何か良い案でも浮かんでるのか? 良ければ参考として聞きたいんだが良いか?」聞けばとりあえずでも参考になるかもしれない。 そう思い、土御門に聞く事にしたのだが…土御門から、あからさまに勿体ぶる様なオーラが出始める。殴りたいとは思ったが、一先ず我慢である。 殴る事自体はいつでも出来るのだ。「仕方無い… 他ならぬカミやんだから教えてやる。 でもあくまで参考であって、真似されると困るんだにゃー。」やっと教えてくれる気になったようだ。 上条は念のため、後一押ししておく事にする。「流石は土御門大先生! 出来る男は違いますなぁ…」「だろう? んで雰囲気作りだが、女性はやっぱりアクセサリーを始めとしてプレゼント系に弱い。 だからまず、オレは服をあげるんだぜい。」「おぉ! 本格的だな。 それで、土御門はどんな服をプレゼントするんだ?」意外と参考になりそうだ、と思い直し更に情報を引き出してみる。「ふっふっふ… カミやん、聞いて驚くなよ? 今年は何と! 英国の某デザイナーからわざわざ取り寄せた、小悪魔ベタメイドのメイ―――」言い終わる前に、上条は土御門の左こめかみに鉄拳を叩き込んだ。机を巻き込む、グワッシャー!という壮絶な音と共に、土御門の体が倒れる。「か、カミやん! せっかく教えてやってるのに何するんだにゃー!!」周りの机を退かせつつ、抗議の声が上がった。「てめぇはただ、記念日とやらにかこつけて己の欲望まっしぐらなだけだろうが!」上条は「話を聞こうとして損した」と言いたげである。しかしふらふらと立ち上がった土御門の方も、これだからお子様は… と呆れた様子だ。「メイド服と言えば、堕天使メイド・堕天使エロメイド・大精霊チラメイド・小悪魔ベタメイド・女神様ゴスメイドなど確かに数はある! だがコスプレで本当に最強なのは、偉大なるロリの御使い『小悪魔ベタメイド』こそが一番なんだぜい!!」何でもかんでもロリへと繋げるお馬鹿が約1名。 堪らず上条も言い返す事にする。「馬鹿野郎! コスプレと言えば、キャビンアテンダントのお姉さんも捨てがたいだろうが!!」……どうやら、別の方向で上条の「何か」が刺激されてしまったらしい。「くっ! いきなりキャビンアテンダントを出すとは… 中々やるな!カミやん!! それならオレは―――」先程までの「彼女を思いやろう」という話と気持ちは何処へやら… である。しかも、徐々に当初の話題からずれ出した事も気にせず、アツいコスプレ議論から「どんなポーズが刺激的なのか?」という議論に移ろうとしている。教室内はというと、彼女云々の話には入り辛かった独り身の男子生徒諸君も議論に加わり、更に白熱していく。何と言うか…… 今日はこんな感じで平和なのかもしれない。しばらくぎゃあぎゃあと騒がしかったクラスだが、突然、ゴンッ!という鈍い音が聞こえた。後頭部に衝撃と痛みを感じ、上条は身体が吹き飛ばされる。上条が先程まで自分が居た位置を見ると、そこには怒りに満ちた吹寄が立っていた。わなわなと震えるその身体には、何故かその後ろにゴゴゴゴゴ… と紅蓮のオーラをまとっているようにすら感じられる。「上条! 貴様のせいでさっきから掃除が終わらないのよ! 下らん話をしてるだけだったら当番の邪魔になるからとっとと帰らんか、この馬鹿者!!」騒いでたのはオレだけじゃない!と主張しようと辺りを見回す。 が、近くの土御門以外はいつの間にか教室から逃げ出すか掃除当番に戻るかしてしまったようだ。文句を言いかけたが、吹寄が更にゆらり… と近付いて来る。これ以上長居すると身体が持たない!身の危険を察知した上条と土御門はそれぞれ自分の鞄を掴むと、脱兎の如く急いで教室から逃げ出したのであった。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 同日 美琴の放課後―――授業も終わり、美琴はいつもの様にとある公園にて彼氏である上条が来るのを待っていた。昨日雪が降ったばかりの雪がそこかしこに残っており、ベンチもまだ濡れている。 おかげで座って待つ事もできない。(もうすぐ1年… か…)あっという間だったな、そんな感想が胸の奥に広がる。昨年の冬、バレンタインデーの際に勇気を出して想いを告げ、ホワイトデーに晴れて上条の恋人となった。途中紆余曲折は合ったものの、自分の想いが伝わった事に美琴は感謝した程だ。春休みには2人で映画を観に行った。 5月の大型連休には第6学区のアミューズメント施設に連日出掛けた。夏休みには上条とだけでなく、黒子や初春さん、佐天さん達と一緒に夏祭りにも出掛けた。大覇星祭には再び勝負を繰り広げた。 一端覧祭には2人で色々と観て回ったのが上条の友達にバレ、2人して色々と弄り倒されたりもした。クリスマスにはお揃いのアクセサリも購入したし、年末年始には2人どころか両家併せて過ごしたりもした。全て良い思い出である。その全てにおいて、美琴の隣には常に上条の笑顔があった。しかし、その一方で不安も抱えていた。上条は相変わらず「何か」に巻き込まれていたのだ。 突然、フラッと居なくなったかと思えばいつの間にか戻ってくる。「戻って来た」と分かるのは大抵、いつもの病院・いつもの医者から連絡によって知る事となる。未だにそういった事に巻き込まれている状態なので、不登校&入院分のツケを補習と課題提出という形で補わなければならない。補習はともかく、課題提出は上条1人に任せておくと仕上げるのでさえ満足に終わらない事も多い。結果、平日の放課後やせっかくの週末を潰して課題を手伝う事が多くなっている状態である。もちろん「課題の手伝い」と称して上条の部屋で2人だけでゆっくり過ごすのも楽しい。だが、(やっぱりこの状況って、何か違くない?)とも思ってしまう。 その都度上条は、「美琴のおかげで助かりまくりですよ。 上条さんは頭も上がりません。」と彼なりに感謝の言葉は述べているのだが…(何だか私って、課題手伝ったり料理作ったりしてくれる「都合の良い女」になっちゃってる気がしないでもないのよね…)そんな風に考えると少し悲しくなってしまう。 勿論、それは自分の思い過ごしだと思いたい。悶々とした気持ちを払拭すべく、機会を見つけては上条に尋ねていた。「ねえ当麻。 私の事… 好き?」そうすると、決まって「勿論好きだぞ? 上条さんには美琴しか居ないからなー。」いつものように決まりきったテンプレートの様な答えが上条から返ってきていた。決まりきっていてもそれを聞いて安心する。 だがそれと共に、少しの自己嫌悪にも陥るのだ。(アイツが鈍感で、そういう事に疎くて行動に起こすのも得意じゃない。 ってのは分かってたハズなんだけどなぁ。 でも、もうちょっと好きって気持ちを態度で示してくれると嬉しいのに。 そうすれば、私ももっと安心できると思うんだけど…)はぁ、と深い溜め息をつく。分かってはいるものの、やはり言葉だけでなく態度でも示して欲しいと思う時もある。(でも、だからってそんな事くらいで別れるなんて出来ないのよねー、私も。 アイツは変にフラグ立ててモテるから、別れた途端に誰かに取られそうだし。)普段、上条から子供扱いされると怒っていた。 だが結局の所、上条に対して恋人としての考え方を押し付けようとしている自分はまだまだ子供なのかもしれない。そこまで考えた所で、ふと上着のポケットから先程街角でもらったチラシを思い出し、取り出した。チラシはバレンタインデーを宣伝するチコレート専門店のもので、見出しとしてこう書かれている。―――あなたの想い(きもち)、バレンタインデーに改めて形にしませんか?(もうすぐ、1年… でも、結局まだ1年も経ってなかったのよね。)結局の所、そうなのだ。 まだ1年しか経っていない。これまでは、自分が越えたいと思った壁は乗り越えてきた。 だからこそのLEVEL5でもある。しかし今は思うように解決できず、1年足らずでこんなにも迷っている自分が居る。ふと、いつだか流行った歌の歌詞を思い出した。(迷いなんて吹き飛ばせばいい、か…)上条から返事を貰い、晴れて彼女と慣れた時を改めて思い出した。 あの時自分にした約束、それを改めて思い出す。(そうよね。 いつまでも迷ってるなんて私らしくない! よ~し!!)先程までの迷いを捨て、再び頑張ろうと決意する。鞄の中の携帯からゲコゲコと音がした。 鞄を開けて携帯を取り出し確認する。どうやら上条からメールが来たようだ。 早速内容を確認する。 From : 上条当麻 題名 : 帰り 本文 : 少し寄り道するから遅くなるかもしれない。 でも、夕方くらいまでには帰れると思うから心配しないように。美琴に自然と笑みがこぼれた。 その笑みは自嘲するような暗いものではない。昔はこちらから送ったメールにすら満足に返信が来なかった。 だが今は上条からこうして連絡をくれるようにもなった。(アイツも少しずつ変わってるのよね。 それなら、もっと「自分を見てくれている」と思えるまで頑張れば、きっと…)そう思い、早速返信のメールを作成して送った。 To : 上条当麻 題名 : 夕飯 本文 : 夕飯作って待ってるから、早めに帰ってきなさい。携帯を鞄にしまい、さてどうしようか?と考えてみる。帰りに一緒にどこかに遊びに行けなくなったのは寂しかったが、それなら気合を入れて夕飯を作っておくのも良いかもしれない。今日は寒さもあるし、ビーフシチューにでもしようか。圧力鍋で本格的に作ると何気に時間がかかる料理だったので、今までは時間にかなり余裕がある日にしか作らなかった。だが、こんな日だったら作っても良いかもしれない。(よし! まずはアイツの胃袋から掴んでやるんだから!!)いつだか美鈴に教わった言葉を思い出しつつ、美琴はスーパーへと向かった。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 同日 当麻の放課後―――クラスを急いで飛び出した後、上条は帰り道の途中で1人あれこれと悩んでいた。一緒に飛び出したハズの土御門は別の道へと逃げたのか、今は居ない。土御門に少し聞きたい事があったが、どうやら聞けそうにない。聞きたい事、とは勿論「彼女へ感謝の気持を伝える」という事についてである。(うーん… 何かプレゼントするなら服とかが良いんだろうか…)今まで美琴とそれなりに色々な所へと出掛けはした。 だがこうして思い出すと、改まって普段に何かをプレゼントした事は無かった気がする。何を贈れば良いのだろうか。必死に考えようとするが、中途半端に話を聞いてしまったが故に「服をプレゼントする」という事から中々離れられない。(やっぱり、何かしらのメイド服にでもして場を和ませつつ言った方が良いのか?)メイド系の服は上条なりに色々とは見てきた。 しかし、(堕天使… は確か神裂が前に着ていたような…… でもって、大精霊うんちゃらってのは五和が着てたとも思うし…)一体、どんなメイド服が似合うのだろうかと色々と考えてみる。本来の目的から、少しずつズレて来ているのだが上条はまだ気付きそうになかった。(堕天使、ってのも違うし。 かと言って大精霊でもないだろ? 小悪魔… それに、女神様ってのも美琴のイメージとは違う気がするなぁ…)美琴の特徴を活かすなら?と考えた所で、簡単な事に思いついた。(そういや美琴は「電撃使い(エレクトロマスター)」じゃねぇか。 なら、アイツに似合うのは「超電磁ビリメイド」って所か?)うむ、我ながら良くぞ思いついた!とばかりに独りで頷く。だがそこで、「電撃使い」のついでに思い出した事がもう一つ。 何かあるとすぐに電撃攻撃(ビリビリ)してくる、という事だ。(いや待て。 例えば「超電磁ビリメイド」ってメイド服をプレゼントしたとして、自分の方がその後危なくなりそうな気がする…)例えプレゼントしたとしても、素直に受け取ってくれるとは思えない。万が一があって受け取り、着てくれたという事があっても、それはそれで色々な意味で危険な香りがした。やはり服のプレゼント、特にメイド服のプレゼントは止めた方が良いかもしれない。結局どうすれば?と頭をグシャグシャッ!と掻いた所で声を掛けられた。「上条さん、お久しぶりでーす。」「お久しぶりです、上条さん。」1人は快活そうな声で、もう1人は少し甘ったるい感じの声。 上条が振り向くと、佐天と初春が立っている。「おぉ! 久しぶりだな、2人共。」美琴を通じて知り合った中学生の女の子であるが、上条からしてみると話しかけ易い子だった。普段、回りに居る女性陣が良くも悪くもキャラが強すぎる、というのもあるのかもしれない。時々、美琴とのあれこれを聞き出そうとしてくるのは苦手であったが、それ以外は普通に色々と話せる。そんな訳で、美琴が居ない時に出会っても何気ない生活の話など良くしていた。「何か悩んでたみたいですけど、どうかされたんですか?」上条の様子を見ていたのか、佐天が質問してくる。まさか、美琴に何のメイド服を着せようか悩んでた。 とは言えない。 少し考えて、元々考えていた事を思い出した。そのまま答えるか悩んだものの、今更隠す様な事でもないかと考え直す。「いや実はさ… いつも美琴に世話になってばっかりいるから、偶には感謝の気持ちと自分の想いを伝えないと、と思ったんだよ。 でも、普段そんな事してこなかったから、いざとなったらどうすれば良いか思いつかなくてな…」上条の悩んでいた内容を知り、佐天と初春が少し驚いているのが分かる。2人は付き合い始めた頃の鈍感さを知っていたのだから、今上条が考えている事に驚くのも無理は無いのかも知れない。「うーん… 上条さんは御坂さんとはずっと一緒にやっていきたいんですよね?」佐天から早速質問が出た。以前は苦手だったこういった質問も、佐天や初春からの度々の質問攻めで大分慣れた。 自分の想いを素直に伝える。「そうだな。 こんな俺の事、構ってくれるヤツなんて美琴しか居ないだろうし。 それに、色々な考えとか気持ちを取っ払うと、やっぱり最後に残るのは『美琴が好きだ』って事だけなんだよ。」「くっ~! そんなに想って貰える御坂さんって、やっぱり羨ましいな~!!」往来だが、声に出して羨む佐天。 初春の方は?と言うと、こちらもやはり同調する様に頷いている。だが、女性陣としては少し納得いかない部分もあったようだ。「でもダメですよ? そういう風に御坂さんの事を想えるなら、『偶には』じゃなくてやっぱり『マメに』そういう気持ちは伝えてあげないと。」「そうですよー。 でも、『感謝の気持ちを伝えよう』とか思いつくだけでも立派かもしれません。」そう言いつつ、初春は携帯ゲーム機にも見える機械で何かをやり始めた。 どうやら、早速何かを検索し始めたらしい。「初春。 こういう時ってやっぱり、プレゼントとかが良いかな? 何を贈ってあげるのが良いと思う?」「それを今調べようかと。 と言っても、予算次第になるとは思うんですけど… 上条さん。 失礼かもしれませんけど、予算はどれくらいを考えていらっしゃるんですか? 教えて頂けると嬉しいかも。」そういえばこの娘は機械系が得意だったっけか、と操作する姿を見て思い出す。「さっき、それなりに下ろしては来たんだけどな。 無能力者の上条さんに、その辺りは余り期待しないで下さい…」自分で言った事とはいえ、悲しくなった気がする。同じ無能力者として察してくれたのか、佐天は「まあまあ」と慰めてくれた。上条の懐事情を酌んでくれたのか、初春がポピュラーな提案をしてくる。「そうですねー。 それなら、スタンダードにお花とか小物辺りのプレゼントとかいかがでしょう? お花とか小物とかなら、よっぽど凝らない限りそんなに値段もかからないと思いますし。」「花とか小物のプレゼントか… うーん、何が良いんだろう?」花屋なんて普段の上条には縁の無い場所、と言っても過言ではないかもしれない。 店が何処にある、というのさえよく分からない。小物も同じである。 Seventh mist辺りに行けば良いのだろうが、自分1人で選ぶとなると上手く選ぶ自信は無い。さて、どうしたものか。 と考え始めた上条に佐天が提案をしてきた。「お花か小物のプレゼントか… 上条さん。 もし上条さんさえ良ければ、私たちもプレゼント選びに協力しますよ?」「え? 良いのか?」もちろん! と胸を張り佐天と初春が答えた。「上条さんだけで選ぶより、私達も一緒の方が良いと思いませんか? 同じ位の年齢の女性、としてアドバイス出来ると思いますよ。」「そうですよ! それに、私が居れば、その時知りたくなった事が出てきても、色々と調べてお伝えできますし。 プレゼントしたい物が決まったら、それを取り扱ってるお店の情報だって、すぐに調べて御案内できますよ。」私は友達に、ナビ春って言われてるくらいですから!と自信満々で初春も佐天に続けて答える。佐天も横で「流石だね!」と初春を持ち上げている。「悪いな… すまないけど、2人の言葉に甘える事にするよ。」「気にしないで下さいよ。 私達も普段、御坂さんには色々とお世話になってますし。 御坂さんと上条さんが喜んでくれるなら私達も嬉しいよね。」「ですです! それで、肝心のプレゼントは何にされます?」何をプレゼントする、という肝心な所はやはり自分で決めないとダメなようだ。どうするかと考えて、小物などのプレゼントは、贈られた側のセンスに合った物を選べるか? という所が少し気になった。「小物とかのプレゼントは、美琴のセンスに合ったもんを選べるかちと不安だな。 そういうのはまた今度、美琴と一緒にでも選ぶ事にするよ。」「多分ですけどー、上条さんが選んでくれた物なら喜んでくれるとは思いますよ?」そんなに気にしなくても大丈夫、とでも励ますように初春が答える。「小物よりは値段が高くなるかもしれませんけど、それなら無難にお花のプレゼントにしませんか? 初春、この辺りの近くにあるお花屋さん調べてくれないかな?」「了解です! それじゃ早速調べてみますね。」初春が早速花屋を調べ始めてくれたらしい。 上条は今のうちに、と携帯を取り出して美琴に連絡しておく事にする。 To : 御坂美琴 題名 : 帰り 本文 : 少し寄り道するから遅くなるかもしれない。 でも、夕方くらいまでには帰れると思うから心配しないように。メールを送ってから程なくして、美琴からの返事が返ってきた。 From : 御坂美琴 題名 : 夕飯 本文 : 夕飯作って待ってるから、早めに帰ってきなさい。返って来た文面を見て、何故だか尻に敷かれている亭主の気分がした。 …が、きっとそれは気のせいだろう。苦笑しつつ上条が携帯をしまうと、丁度初春から声がかかる。「早速、この辺りで良い感じのお花屋さんがいくつか見つかりましたよ! あとは… どこが良いでしょう?」初春が迷ったそぶりを見せると、佐天が「どれどれー?」と画面を覗き込む。「ここが良さそうじゃない? ここなら、プレゼント用のお花を色々と取り扱ってるみたいだよ。」「ふーむ… あっ! そこなら私、道分かりますよ。 そこまで御案内しますので、早速行きましょう。」案内役も買って出てくれた佐天と初春が先頭になり、3人は花屋へと向かった。 例えばこんな1月31日(記念日) 2 同日 とある花屋にて―――初春の案内で、3人は第7学区のとある花屋に来ていた。西洋の通りにいかにもありそうなモダンな外観で、赤を基調としたシックな色使いに好感が持てる。入り口の上辺りに落ち着いた山吹色で「Flore claire(フロール・クレール)」と書かれている。 恐らく、それがこの店の名前なのだろう。外には大きな鉢植えが置いてあり、入り口の横にはカラーウッディを利用しその日お勧めであろう花の名前と値段が書かれていた。外から少し見えるだけでも店内に色々な種類の花があるのが見える。案内してくれた初春と佐天も、店の雰囲気と取り扱っている花の種類の豊富さに思わず見とれているようだった。「こんなに種類あるのか… ま、とりあえずは片っ端から見てくかな。」そう呟き、早速上条は店内へと入って行った。 上条の呟きを聞いた初春がふとある事を思い出した。「花って確か、それぞれに花言葉があるからそこも気にした方が良いですよね?」「かもしれないねー。 あ、そうだ! 今回の趣旨に合いそうな花言葉を持ってる花、調べられないかな?」「ちょっと待って下さいねー。 花言葉、花言葉… っと。」初春は早速調べ出すが、一言で「花言葉」と言っても意外と目的・用途別に種類は多い。「今回の『感謝』とかを意味するのは、カンパニウラとかダリア、モルセラとかですかねー。 でも今挙げた花って、花束とかよりも一輪の方が合うかもです。 でも、花を一輪だけプレゼントというのも微妙ですよね。 きっと、店員さんなら簡単に作ってくれるとは思うんですけど、他の花と混ぜる感じになるんでしょうか…」と言って、初春は画面に表示された花を指しつつ悩む。花言葉も意識するとなると、意外と難しいな。 と改めて実感したが、佐天は上条が言った先程のセリフを思い出した。「ねえ初春… そういえばさっき、上条さんって『美琴が好きだ』って思いっきり言ってたよね? どうせなら、そういう方向の花言葉から選ぶのも良いんじゃない?」「…ですかねぇ。 それじゃ、そういう方向の花言葉は? っと…」話の意図を察したのか、初春は早速「そういう方向の意味」の花言葉を持つ花を探し直す。 その口元が何やらニヤけているのは気のせいだろうか。「見つけました! これとかこれ、こんな感じのお花はどうです?」「どれどれー?」佐天が画面を覗き込むと、そこにはいくつかの花が載っていた。 初春が指差した花を見ると、花の写真と共にそれぞれの花言葉も載っていた。「良いね、これ! この辺りなら、どれを選んだとしても後で面白いかも…」「ですです。 後で御坂さんをファミレスに呼んで、花を貰った際の話を聞けると楽しいかも! イヤ、絶対に聞き出しましょう!!」店先でニヤニヤする様子はハタから見ると結構怪しいのだが、2人は気にしていない。そんな事よりも、「さて、どうやって呼び出し、聞き出そう?」とその先の事まで考え出している位である。「このお店のHP上から確認すると、どれも『在庫有り』にはなってたんですけど… 一応、店員さんに確認してみますね。」「了解! それじゃ私は上条さんを誘導してみるね。」お互いに頷くと、初春は店員のもとへ。 佐天は上条のもとへとそれぞれ向かうのだった。(さて、っと… 上条さんはどこへ…?)広い店内とは言え、色々な花が飾られていて場所によっては反対側の通路も見えない。どこだろう? としばらく探した所で、通路の途中で何かを見つめて佇む上条を見つけた。「あ、居た居たー。 って、上条さん立ち止まってどうされたんです?」近くに寄ると、一つの花に注目しているのが分かった。 その周りを見ると、同じ花でも『紫』、『青』、『ピンク』、『白』、『黄色』と種類が豊富なようだ。「いや。 パーっと店内を見てきたんだけどさ、急にこれが目に留まったんだ。 んで、よくよく見てみると意外と綺麗だなと思ってな。」言われてみると、確かに綺麗だった。 ちょこん、と白い小さなものが目に留まる。 じっくり見つめてみるとそれが花であるというのが分かった。「自分の感覚だと綺麗だな、とは思えるんだけど… こういうのって、贈られるとどうかな?」「そんなに心配しなくて大丈夫です! 綺麗ですし、絶対喜んでくれると思いますよ!!」(うーん、これってさっき見た気がするような… この花って何だったっけ?)上手く思い出せずにモヤモヤとしたが、自信無さげに確認してきた上条に対して佐天は胸を張って答えた。「これなら、この花をメインにして綺麗な花束にしてもらえるかも。 早速店員さん探してきますね。」手の空いてそうな店員はいないだろうか?と辺りを見回すと、初春と女性の店員が揃ってこちらにやってくる所だった。やって来た初春に近寄り、小声でそっと耳打ちする。(上条さん、そこにある花が気に入ったみたい。 で、それに決めるかもって。 でも、そこにある花って、さっき見かけなかったっけ? 気のせいかな。)佐天がそれとなく示した花を見て、驚く。 どんな花を選ぶのか、と少し不安になっていたがどうやら杞憂だったようだ。(わー、鮮やかだし綺麗で素敵じゃないですか! 名前は……… うーん。 確かに、さっき見かけたような…)初春も気になるのか、花の名前で再度検索をし始める。ヒソヒソと小声で話し合う佐天と初春だったが、店員は初春からそれとなく話を聞かされていたらしく上条に声を掛けていた。「いらっしゃいませー。 本日はどのような花をお探しですか?」「あっ、ども。 実は、色々と見てたらこの花が何となく気になって… 質問なんですけど、この花で花束とかって作ってもらえますか?」と言って上条が指差した花を店員が確認する。 そういった注文には慣れているのか、すぐに答えが返って来た。「『その花だけで』っていうのもできますけど、その花なら他のを少し付け足せばもっと見栄えの良いのができますよ。 サイズはどうされますか?」サイズまでは考えて無かった。 どれくらいが良いんだろう?と考え込んでしまう。しかし客が悩むのにも慣れているのか、店員がさり気無く話を導いてくれた。「『花束にしたい』って事は、どなたかにプレゼントされるんですよね? そうすると、サイズは手渡せる位で良いかもしれませんね。」「えっ? ええ、まあ…」この店員さんなら、目的をちゃんと話した方がより良くしてくれそうだ。 だが、「彼女に贈ろうかと」と伝えようとして恥ずかしくなってしまう自分が居る。土御門や青ピ、佐天や初春などの知り合いに言うのは慣れてきた上条だったが、見知らぬ人に言うのはまだ戸惑いがあった。どうしよう?と悩んでいると、少し離れた所で歓声が上がる。 歓声の主は佐天と初春であった。(か、上条さん素敵です! 直感でこの花を選ぶなんて!!)(だよねだよね! さっき初春が調べていくつか見せてくれた中でも、まさか「これ」を選ぶなんてね。)2人を見ると、小声で相談しているようだったが何だか盛り上がっていた。 上条と店員の視線に気が付いたのか、こちらに慌てて近付いてくる。「上条さん。 ダメですよ、恥ずかしがらずに目的をちゃんと伝えないと。」こちらの話はちゃんと聞いていたらしい。 いきなり初春にダメ出しをされてしまう。「えっと… 実は、彼女に自分の気持ちを伝えるのにプレゼントしたくて。」感謝の気持ち、とまではまだ言えなかった。 だが、上条がそう伝えると、「ふふっ。 その彼女さん、羨ましいですね。」と、店員は微笑みながら言う。 続けて、「実はこのお花…」とその花が持つ意味を教えてくれ、「この花で良いか?」と確認された。花が持つその意味に一瞬固まるが、既にこの花が気に入ってしまっている。 今更他を探しても見つかる気がしなかった。(ま、美琴といえど全部の花言葉を知ってるとは限らないからな。 …見た感じで喜んでくれるだろ。)自分にそう言い聞かせ、選んだ花をメインにして花束を作ってもらう事にした。GOサインが出ると、店員は必要になるであろう量と他に添える花なども選び奥のレジへと移動する。てきぱきと花束を作る作業をしつつ、店員は再び上条に質問してきた。「花束でしたら、ラッピングなどいかがでしょう? ラッピングは通常タイプのアメリカンと、少し上品な感じのヨーロピアンの2種類ございます。 通常タイプのアメリカンだと無料で。 ヨーロピアンですと、すみませんがお花代の他にプラス500円となっております。 どちらになさいますか?」どの程度を以って通常と言うのだろう?と疑問に思ったが、通常よりは上品な方が良いかもしれない。「と、とりあえずヨーロピアンでお願いします。」「それと、プレゼントでしたらメッセージカードなども一緒にいかがでしょう? こちらもプラス500円となっておりますが…」「一応、それもお願いします。」「メッセージカードを書くのであれば、こちらでどうぞ。 少しですけど、色々なペンも有りますのでお使い下さい。」空けてくれたレジの端を使い、早速カードにメッセージを書き込んでみる。書き始めこそ少し迷ったものの、自分は気持ちを伝えられると信じて簡単なメッセージで済ませる事にした。ありがとうございました、とメッセージカードを渡すと店員が受け取り花束に添えてくれる。流石、と言うべきだろう。 上条がカードに書き込み終わった時点で既に花束は完成している。出来栄えは?というと、頼んだ自身でさえも少し驚く程の良い出来であった。この花束を崩さずに持って帰るには?と考え、気になった事を聞いてみる事にする。「あっ、そうだ! 花束を直接持って帰るのが恥ずかしいんで今日届けてもらうように配送とかってお願い出来ませんか? 家は第7学区のとある学生寮なんですけど。」「配送ですか… うーん。 配送だと、前日の14時までにご注文頂かないとお届け出来ないんですよー。 あっ、そうだ。 少々お待ち下さい。」一旦断られはしたものの、何かを思い出したらしい店員が他の店員を探してレジを離れた。配送が断られた、という事は自分で持って帰らないといけない。とりあえず持って帰る途中で誰かに出会わない事を祈りつつ、覚悟を決める。 だが、上条が覚悟を決めた辺りで先程の店員が戻ってきた。「確認しました所、これから第22学区の方にお花を配送しに行く用事がありますね。 その際にご一緒でよければお届けできますよ。」と嬉しい提案をしてきた。 話を更に聞くと、それは夕方頃になるらしい。 時間帯的にも丁度良いかもしれない。「届けてもらえるなら、それでお願いします。 送料はいくらになります?」「お代は結構ですよ。 『ついで』で行ける範囲でもありますから。 それでは、配送先のご住所をお聞きしてもよろしいでしょうか?」渡された紙に、配送先として自分の学生寮の住所を記入する。「それじゃあ、配送宜しくお願いします。」「ありがとうございました。 それと、有料のラッピングとメッセージカードをセットでお選び頂いたので『お花の情報カード』もつけておきますね。」「何から何まですみません、ありがとうございます。」話がまとまった所で会計を済ませる。 会計が終わった所で改めて店員に礼を伝え、上条達は店を出る事にした。 「せっかく案内して来てもらったのに、最後は自分で決めちまってごめんな。」店から出てしばらく歩いた所で上条が謝ってきた。「問題ないですよー。 やっぱり、『上条さん自身が選ぶ』というのが大事だと思います! それに、案内だけでもお役に立てて良かったですし。」大丈夫、気にしないで下さい。 という初春と、その横で佐天が頷いている。「それじゃあ私達はこっちの道なんで、この辺りで!」と言って佐天と初春は上条と別れた。 段々と遠くなる上条を見送り、姿が見えなくなった辺りで横に居る初春が話しかけてきた。「久しぶりに上条さんの本領発揮を見ましたけど、やっぱり凄いですねー。」「だね。 まさか、パッと見であの花を選ぶとは思わなかったよ。 もし、あんな事を自分がされたら、雰囲気によってはイチコロかも…」そこまで言った所で佐天が溜め息をついた。「あーぁ… 私も御坂さんみたいに素敵な彼氏見つけられるかなー?」「見つけられますよ、きっと! お互いに頑張りましょう!!」「そうだよね! 頑張るかー!!」完全下校時刻も近くなった道の片隅で、2人の少女は何やら決意を固めるのであった。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 同日夜 とある学生寮―――佐天と初春の2人と別れた後、上条はまっすぐ学生寮へと帰って来ていた。メールで「夕飯作って待ってる」と言っていたのを思い出したからだ。 余り待たせるのも悪い気がする。玄関のカギを開けドアを開けて中に入ると、制服にエプロン姿の美琴が玄関で出迎えてくれた。「おかえりー。 思ってたより遅くなくて安心したわ。」「夕飯作って待ってる、って話だったからな。 出来るだけ待たせたくなかったんだよ。」そう言いつつ中へ入ると、一段と良い香りが漂ってきた。 良い香り自体は廊下を歩いて来た時からしていたが、どうやら自分の家だったようだ。台所を見ると鍋が見えた。 鍋と香りから判断すると…「おぉ! 今日はビーフシチューか? 珍しいな、平日に作ってくれるなんて。」「今日は寒かったからねー。 久しぶりに腕によりをかけて作ったわよー。」と美琴は可愛らしいガッツポーズをしながら答えてきた。「もう出来てるから、そろそろ夕飯にしない? 洗面所で手洗いとうがいしてきてよね。」「おーう、分かった。 ちょっと待ってろ。」返事をしたあと一度リビングへと移動し鞄を置く。 そして洗面所へと向かう。上条は洗面所で手洗いとうがいをしながら、どうやって話を切り出そうかシュミレーションをしてみた。改めてシュミレーションをしてみると意外と難しそうだ。 柄にも無い事を言う(であろう)自分に恥ずかしくもなる。(今更ながら凄く恥ずかしいぞ、これは。 だが、もう花束も頼んじまったしなぁ…。)仕方無い! 決めたからにはやってやる!! と決意し、リビングへと戻った。リビングへと戻ると、既にビーフシチューが盛り付けされていた。 他にサラダもある。 後は上条が席に着いて食べるだけだ。美琴の正面に座ると、「当麻を待ちくたびれてお腹ペコペコよー。」と頬を軽く膨らませて抗議してきた。「悪い。 ちょっと用事があってな。 それじゃ食べようか。」2人で「いただきます。」と声を合わせ挨拶し、食べ始める。上条はどう切り出そうか未だに迷っていた。 話をそれらしい方向へと持っていこうかと考えたが、上手いきっかけも思いつかない。花が届けば、とも思ったがまだインターホンが鳴る気配は無かった。あれこれと考えている内に、そわそわとしている様子が美琴にも伝わってしまったらしい。「どうしたの? さっきから落ち着かないみたいだけど…」「えっ!? そうか? か、上条さんは落ち着いてますの事よー?」「思いっきりウソでしょ、それ。 …またどっか外へ行くとか、何か隠し事とかしてるんじゃないでしょうね?」信じられない、とばかりに疑いの目で見てきた。 やはり、美琴には敵わないかもしれない。(花束はまだ届いてないが、もう言うしかないか。)そう決意して、話を切り出す事にした。「…あー。 実は美琴に話さないといけない事があってだな…」「何よ? まさか本当にまた外に行くとか言うんじゃないでしょうね?」美琴は自分で言った事を疑いから確信に変えようとしていた。 歯切れの悪い上条の話し方では無理も無いのかもしれない。「いや、それは違うんだけどな…」「じゃ、何よ?」先程までの空気は一転、険悪なムードになりかける。 が、そこでインターホンが鳴った。助かった、と思い急いで玄関へと向かう。 時間的に、頼んでおいた花だろうと予想し印鑑も用意した。「どちら様ですか?」「フロール・クレールです。 お届けものに参りました。」玄関のロックを外しドアを開ける。 と、そこには先程店で対応してくれた店員が立っていた。「それではこちらに受け取りのサイン、または印鑑をお願いします。」言われるままに、指差された場所に印鑑を押した。「それではこちらが控えになります。 ありがとうございました。 それでは頑張って下さいね!」花束が入ったダンボール箱を上条に渡すと、店員は去って行った。 何か最後に一言、余計な事を言われた気がするが気にしない事にした。玄関先でのやり取りが中にも聞こえていたのだろう。 ダンボール箱を持ってリビングへと戻ると、美琴がジトっとした目でこちらを見ている。その目はいかにも「何を頑張るのよ?」と言いたげだ。だが、それを無視する形で予定していた事を実行に移す。 品物(プレゼント)は届いたのだ。 あとは言うだけである。覚悟を決め、美琴に届いた品物を開けるように促した。「とりあえず、そんな目で見るな美琴。 お前に何か届いたみたいだぞ?」わざとらしい振りに、ダンボール箱を渡された美琴は相変わらず何か言いたげだった。「何か、も何も贈り主がアンタになってるじゃない。」「いいから、開けてみろって。」上条に促され、とりあえずダンボールを開けてみる事にした。ダンボールを開けると… 中には花束が入っている。「綺麗…」ピンクを基調としたその花束に、美琴は思わず見とれてしまう。花束の色使いや花自体の綺麗さに見とれていたが、しばらくしてカードが2枚挟まっている事に気が付いた。1枚目のカードを手に取る。 そのカードは『お花の情報カード』とタイトル付けされていた。中を見ると、そこには「お花の楽しみ方」として延命方法などの色々な情報がプリントされている。そして最後に、花の名前と花言葉が手書きで記入されていた。 恐らく、客が買った花毎に店員が書き分けるのだろう。そこにはこう書かれている。 花の名前(色) : スターチス(ピンク) 花言葉 : 永遠に変わらない心一瞬、それを見た美琴の動きが止まりそうになる。 だが、2枚目のカードが気になり何とかそれを手に取る。2枚目のカード、それはグリーティングカードであった。カードには短い文章ではあるが、見慣れた上条の筆跡でこう書かれていた。―――いつも迷惑ばかりかけている美琴へ。 日頃の感謝と自分の想いを込めて。 From 当麻2枚目のカードのメッセージを読んだであろう美琴の動きが止まった。恐らく数分程経ったであろうか。 未だに美琴は動かないでいる。きっと言うなら今だ!と決意し、上条は美琴を後ろから抱きしめた。 すると、美琴からこちらに向き直して抱きついてくる。……美琴は泣いていた。その姿に焦り、上条は咄嗟に謝ってしまう。「ごめん、美琴。 やっぱり、俺がこんな柄にも無い事すると変だよな。 でも、外へ行くとかそんな事は無いから。」上条の確認に、美琴は無言で首を左右に振り「違う」と答える。「何て言ったら言いか上手くまとめられないけど… 入院とか課題とか、いつも色んな事で迷惑ばかりかけてるからさ。」そこまで言った上条は、これまでの日頃の感謝の気持ちなどを出来る限りの言葉で伝えた。きっとそれは、何を言っているのか上手くまとまっておらず意味不明な部分もあったかもしれない。でもきっと自分の気持ちは伝わってくれただろう。そう思えた所で「いままで色々と迷惑かけてごめんな。 そして、俺を選んでくれてありがとう。 俺も美琴の事、愛してるよ。」と改めて美琴に想いを伝えた。先程、感謝の気持ちを伝えた辺りでようやく落ち着き始めていた美琴だったが、再び泣き出してしまう。「うぇぇ… わだじもとうmのことぃあいじtるって…」何か言ってくれたようだったが、泣きすぎて解読不能にまでなっている。上条は優しく抱きしめ直し、泣き止むまで美琴を宥めていた。小一時間程経ったであろうか、やっと美琴は落ち着きを取り戻した。すると、ポツポツと美琴も自分の気持ちを語り出す。「ずっと私だけ空回りしてたのかと思ってた。 いつも当麻は『好きだぞー』ってテンプレみたいな返事しかしてくれないし。 当麻は私に彼女になるのをOKしてくれたけど、それは私を気遣ってくれたからなのかな?って。 ひょっとしたら私の気持ちだけ一方通行で… でも、他に好きな人が居ても良いから当麻と一緒に居たいな、って。 でもさっき、当麻の気持ちを言葉にしてくれて、形にもしてくれて… 『嬉しい』って思ったら涙が止まらなくなっちゃって。」それは、美琴が如何に上条を好きだという事、そして不安だったかという事でもあった。聞いた上条は嬉しさを感じると共に、反省もした。 自分の考えでここまで不安にさせていたのか、と。「美琴は一度決めたら突っ走りかねないから、せめて美琴が高校に入るまでは『愛してる』とかは言うのは待とうと思ってたんだ。 けど、俺の考えが逆に美琴をそんなに不安にさせてたなんて思わなかった。 それが今の内に分かっただけでも、許してくれないか?」「もう良いの… あなたの気持ちはちゃんと伝わったから。」そこまで言うと、自分も気持ちを伝えた事で完全に落ち着いたのだろう。美琴は姿勢を正して上条の方を向き「私はきっと、当麻のお嫁さん(パートナー)になる為だけに生まれて来たと思う。 もし他に選択肢があったとしてもそんな選択肢はいらない。 私も、当麻の事を愛してます。」と言って、ぺこりと頭を下げて来た。 そんな姿が可愛くて、美琴を強く抱き寄せる。上条は目をみながら「俺こそ、今一つ頼りにならない奴かもしれないけど、改めてよろしくな。」そう言って美琴の頬を両手で包み、唇を重ねる。まだまだ寒い1月の学園都市。 だが、とある学生寮の一室にはそんな寒さに決して負けない暖かいカップルの姿があった。
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上琴の奇妙な体験 3 再び時間は戻る。 美琴と上条が5年後上条を追いかけ始めてから、約10分後。 2人は今、5年後上条が住んでいるマンションの一室の前に立っていた。「ここが5年後の俺が住んでる部屋か…………御坂、もう大丈夫か?」「う、うん、大丈夫よ」 そう言った後に、美琴は大きく深呼吸を繰り返す。 何度も何度も、深い深呼吸だ。 しかし、自分の中では爆音で音楽を聴いているように心音が鳴り響き、感じている緊張は過去最大級。 とてもじゃないが平常心に戻るなんてムリな話だ。(とうとう来ちゃった…………どうかな……5年後の私……ほんとに付き合えてるかな……) と、こんな感じで緊張しまくっていたため、道中5年後上条に声をかけられないまま、部屋の前まできてしまったのだ。 もちろん上条も5年後の自分に声をかけようと何度か試みたのだが、その度に美琴がビビって上条を引き止めてしまったため結果は同じだった。 上条が『もう大丈夫か?』と言ったのはこのためである。 気持ちを落ち着かせるため深呼吸を続けていた美琴は、一度目の前のドアを見つめる。 この先に今回の事件の全てのカギを握っている5年後上条がいるのだが、美琴には一つ気がかりなことがあった。(…………想像してたより小さいわね、このマンション……さすがに一緒には暮らしてない……?) このマンション、外から見た感じ多分1LDKだ。 自分の妄想ではもっと豪華で華やかなマンションに住んでいる予定だったため、やや不安に気持ちが傾く。(…………ま、まああれよ、きっと親が許してくれなかったとかそんな理由のはず……うん) 勝手に納得した美琴は勝手にうなずき、生まれた不安をかき消そうとし、改めてドアを見つめる。 ここに入れば全てがわかる。 5年前に帰る方法も、今の自分の近況も、だ。 これが最後、そう決めて美琴はもう一度大きく一つ深呼吸をした。「…………ごめん、おまたせ。 もうほんとに大丈夫」「よし、じゃあ…………インターホン押すぞ?」「………………うん」 美琴は覚悟を決めた。 この扉の先にどのような運命が待ち受けていようと、全て受け入れると。(大丈夫……大丈夫? きっとコイツとは仲良くやってるはず……よね?) 美琴は祈る思いで、ドアを見続ける。 そして上条がインターホンを押そうと腕を伸ばした時だった。「「ッ!?」」 ガチャリ、という音がしたかと思うと、突然目の前のドアが開いた。 それはとてもゆっくり、普通に開ける何倍もの時間をかけて、そのドアは開ききった。 だが美琴も上条も一切ドアには触れていない。 上条はインターホンを押そうとしていたし、美琴はその後ろで祈っていたのだから、触れることは不可能だ。 ということは、もうわかりきったことだが、中にいる人物がドアを開けたということ。「…………」 そう、5年後上条だ。 先ほど外で見かけた時と同じ格好のままの彼は、不思議な物を見ているような様子でこちらを見ている。 5年後上条とのあまりに突然過ぎる出合いに、美琴も上条も思わずたじろぐ。(な、なんで突然…………まだ心の準備ができてないわよ……こっちのタイミングに合わせてでてきなさいよ!!) さっきの覚悟はどこへいってしまったのか、美琴は視線を落とし、心の中で5年後上条に理不尽ないいがかりをつける。 とは言えついに会えた、会ってしまった、これでもう後戻りはできない。 だがしかし、聞きたい事がたくさんあるはずなのに、言葉が出てこない。 帰る方法や、なぜここに来る事になったのか、そして自分の近況も。 なのに極度の緊張のためか、体が、口が、全く動かない。 そして訪れる沈黙。 突然のことで、美琴も上条は何も言葉を発せなかったのだが、5年後上条はにっこりと笑って「――ようこそいらっしゃいませ、5年前のお二人さん」 慣れた様子でそう言った。 まるでお店で店員に迎えられるような対応。 そんな5年後上条を見て、ちょっぴりときめいてしまったのは内緒だ。 そんな感じで美琴が惚けているうちに、上条がようやく口を開き、一つ目の質問をぶつける。「え、あ、えーと……お、俺、だよな?」「当たり前だろ? 正真正銘、どこからどうみても俺はお前、『上条当麻』だ」「あ、ああ……ですよね……」 上条の当たり前すぎる質問に答える五年後上条。 と、同時に彼は上条をジロジロと、頭の先からつま先までまんべんなく見回していく。 「いやー、それにしても5年前の俺ってこんな感じだったっけ? もうちょっと大人っぽくなかった?」「何言ってんのよ、そんなもんでしょ?」 その声は突然聞こえてきた。 美琴は一体どこから、と思ったが答えはすぐにわかった。 5年後上条の背後からだ。 今まで彼にばかり注目していたため気がつかなかったが、誰かいる。 5年後上条で隠れ姿は見えないのだが、美琴はその声に聞き覚えがあった。(い、今の声は…………まさか……) 美琴の鼓動が一瞬のうちに加速する。 血液が体中を駆け巡り、大気中の酸素を欲し始める。 だが、美琴は呼吸をすることさえ忘れる勢いで、今の声を脳内で繰り返し再生し、間違いがないかを確かめる。 そうしている間にもその声の主は、部屋の奥から上条の後ろへと歩み寄ってくる。 肩くらいまである茶髪でエプロンをしたその姿は、今までにずっと見てきた姿。 そう、それは――「わ、私…………?」 美琴は自信無さげに尋ねかけた。 5年後上条の後ろにいたのは、19歳になったと思われる自分、つまりは御坂美琴。 外見は上条以上に変化が見られ、特に自分には無いものが胸にはあった。 だが、そんなナイスバストを気にしている場合ではない。 何度も何度も彼女の顔を見直すのだが、間違いなく自分だ。(ほ、ほ、ほんとに私……? …………ってことは、私がいるってことは! コイツと付き合ってる……ってこと……?) 胸がじんわりと温かくなった。 信じられないようなことだが、これは夢ではない。 紛れも無い5年後の現実なのだ。――ヤバい、超嬉しい もう顔のにやにやが治まってくれない。 そして上条も突然の5年後美琴の登場に驚いたようで、目を白黒させていた。「え……マ、マジで御坂か!? ……なんか5年でだいぶ変わってるな…………」 彼の視線が5年後の自分の胸にいっているような気がするのは気のせいだろうか。 いや多分気のせいじゃない。 今は最高潮にテンションが上がっているためいいが、普段なら即電撃ものだ。 だが、そのテンションを下げるような言葉が、5年後美琴から飛び出した。「ちょっとちょっと、私御坂じゃないわよ?」「「え?」」 美琴は思わず固まった。 急激に血の気が引いた気がする。 『御坂じゃない』 その言葉はそれほどの威力を持っていた。 “御坂じゃない”ということはつまり、美琴でも、『妹達』でもないということ。 自分に姉妹がいるなんて話は生まれて14年間一度も聞いた事がないので、その線は無い。 にもかかわらず、今5年後上条の後ろには、自分を5歳ほど成長させた女性が確かに立っている。 もはやわけがわかない。 この女性は自分ではないのか、違うのならば一体誰なのか、もしかしてクローンの計画が再開されたのか。 混乱する美琴だったが、彼女を見ていたその時あるものが目に入った。「……ん? …………え……そ、それは……」 『それ』を見た瞬間、頭が真っ白になった。 『それ』は『そこ』にあるはずがない物、というか『そこ』に『それ』があってはヤバい、いやヤバくはないが異常だ。 上条はまだ気づいていないようだが、美琴はもう『それ』に釘付けになっていた。(…………ちょっと待って、ちょっと待ってよ……そんなことあるわけ…………あるわけ……………でも、もしありえたとしたら……) “ありえない、なんてことはありえない” 有名なホムンクルスが言った言葉であるが、それが今の状況にぴったりだ。 この目の前ある光景全てから、美琴は改めて推測する。 『5年後上条と一緒にいる』、『御坂じゃない』、『とある物』、これらより導き出される答えはただ一つ。 全く持って信じられないが、それしか思いつかない美琴はおそるおそる自分の答えを口にする。「御坂じゃないってことは………………上条……?」 この意味がわかるだろうか。 わかる人にはわかるだろうが、上条は全く理解できていないようで、『…………いやいや御坂、お前は一体何言ってんだ? 上条さんは意味がわかりませんことよ』と言いたいような顔でこちらを見ていた。 そりゃいきなり『御坂じゃなくて上条』なんて言えば10人が10人そんな感じの反応を見せるだろうし、言った本人の美琴だってまだ自分の言った答えを信じれていない。 戸惑う美琴と上条、そんな2人に5年後美琴が歩み寄ってきたかと思うと5年後上条の隣で足を止め、サラリと正解を言った。 「そうよ」「え?」「だからその通り、私は『御坂』じゃなくて『上条』よ」「え」 美琴に続き上条も固まった。 5年後美琴のほうを向いて、そのままピクリとも動かない。 美琴は5年後の自分の左手薬指付近を指差した。「じゃ、じゃ、じゃあ、『それ』、っていうか、その指輪は……本物?」 てその指輪を指す指、というか腕全体が震える。 指輪を指摘された5年後美琴はというと、嬉しそうに左手を顔の前へと挙げる。「ああこれ? もちろん本物の結婚指輪よ、いいでしょ」「結婚……指輪…………?」「ああ、俺たち今年の春に結婚したんだよ。 いや、まだ数ヶ月しか経ってないのに『御坂』って響き懐かしいな」「2人共もうわかったでしょ? 私の名前は『上条美琴』で、私たちは夫婦ってことよ♪」「…………ふ、ふ、ふ……夫婦…………?」 これ以上の情報処理はもう不可能。 『夫婦』というワードを聞いた美琴の脳はオーバーヒートを起こし、それはとてもとても幸せそうに気絶してしまったのは、言わずともわかるだろう―― その部屋は美琴が予想した通り、1LDKの造りだった。 ドアを開けて入るとまず廊下があり、右側にトイレと洗面所(浴室)が、左側には寝室に使っているという5.5畳の洋室へと繋がる扉がある。 そして廊下を抜けると、そこにはベランダ付きで約14畳のLDKが広がっていた。 座り心地のよさそうな2人用のソファ、その正面には40インチほどの大きなテレビ、食事に使っているのであろうテーブルとその側にイスが4つ、その他家具も充実していて、そこそこ良い暮らしをしているようだ。 美琴はこれを『小さい部屋』と思ったようだが、上条からしてみればこの暮らしは十分過ぎる。 そしてその室内にいるのは、4人の男女。 世界を救ったヒーローが2人と、最強の電撃娘が2人(1人はソファにて気絶中)だ。 5年後の自分たちがキッチンで何かしている間、ヒーローの片方は、イスに座り頭を抱えていた。(マ、マジで……俺5年後には御坂と結婚してんのか…………) 上条にとって、これは予想外中の予想外だった。 ぶっちゃけた話、5年後に彼女ができてる自信はあった。 美琴にふざけて『彼女できてるんじゃね?』とか言った後、街中で5年という月日がどれだけ変化をもたらすかを見て、5年あれば自分にも出会いくらいあると思っていた。 ところが、だ。 蓋を開けてみれば、彼女を飛び越して『妻』となっていたのはとても身近にいた人物。 そんなことなど。今の上条と美琴の関係からして考えられないようなことなのだから、そりゃビビる。 だが問題はそこじゃない。 いや、もちろん『美琴が将来の嫁』ということも大問題だが、今はそれ以上の問題がある。(……御坂すっげーショック受けてたよな……『妻』って聞いて気絶するし…………) 心の傷とか負ったらどうしよ、などと上条は呟く。 つまり、彼女の心情のほうが上条にとっては問題だった。 現在美琴は絶賛気絶中。 部屋に置いてあるソファーの上で気持ち良さそうに眠っているが、すぐに起きて現状を認識するだろう。 その時彼女が受けるさらなるショックは計り知れないのではないだろうか、と上条は考えた。 もちろんその考えは大はずれだが。 そんなこんなで、美琴へどうやって対応しようか悩む上条だったが、幸いまだ時間はある。 彼女が起きてくるまでに、なんとか 『できるだけ長く眠っていてほしい』と願う上条だったが、その願いは叶わなかった。「ん?」 足音が聞こえたのでふと顔を上げると、キッチンにいた5年後美琴がソファの美琴の元へ歩み寄って行った。 かと思うと、気絶している彼女肩を掴み、思い切り前後に揺さぶり始めた。「ほらいつまで気絶してんのよ! いい加減起きなさい!!」「ちょ!!」 上条が止めようとする間もなかった。 ガクガクと激しく揺さぶられた美琴は、当然目を覚ます。 「ふぁ……はれ……?」 5年後美琴がぱっと手を離すと、美琴は頭をくらくらさせたまま右手でごしごしと目をこする。 起きた、起きてしまった。せっかく時間があると思っていたのに。 上条が唖然としながらその状況を見ていると、美琴はは上半身を起こした。 そんな5年前の自分の姿を見た5年後美琴は『よし』と呟いた後、上条に対して、 「ごめんね~私のせいで時間取っちゃって。 じゃ、もうちょっと待っててね」 そう言ってバッチリウインクを決めた5年後美琴はキッチンへ行ってしまった。 『私のせいで』というのは、5年前の、つまり14歳美琴を意味しているのだろうが、上条としてももっと時間がほしかったため、『なぜ起こす』という気持ちが強い。 ともあれ、リビングに残された上条は、(キッチンに5年後の自分たちの姿が見えてはいるが)寝起き美琴と2人きり。 まだ美琴への対応策はまとまっていないが、とりあえず声をかけてみる。「あ、あの……御坂…………だ、大丈夫か?」「んー……?? ここは…………あ……そうだ……未来、だっけ」 美琴は完全に覚醒したらしい。 むくりと上半身を起こした彼女と、ばっちり目が合った。(…………もう、電撃食らう覚悟を決めるしかないか……) 上条は小さな声で『不幸だー』と呟いた。 しかし、この後の展開はまったまた予想外。 きょろきょろと室内を見回し、キッチンに5年後の2人の後ろ姿を目にした美琴は「わ、私たち、結婚したみたいね…………えへへ……」「……あれ? 怒ってないの……か? 『なんでアンタが私と結婚してんのよー』みたいなこと言ってくるかと思ってたんだけど……」「え、いや、あの…………別に……ね、そんなことは……」 美琴は頬を紅く染め、上条から目をそらした。 そのちょっぴり可愛い反応に、上条は困惑する。(え? 何この反応。 予想と違うんですけど…………御坂は俺と結婚することが嫌じゃないのか? なんかむしろ喜んでるような気がするのは…………気のせいに決まってるよな) 誰か彼に常識というものを教えてやってほしい。 普通なら、その態度を見れば美琴の気持ちくらいすぐわかるものだが、さすが鈍感王子といったところだいろうか。 で、予想では即電撃だと思い、未だに右手を美琴の方向へ身構えたままの上条の前にコーヒーが置かれた。「おまたせ、コーヒー入ったぞ。 熱いから気をつけろよな」「お、おう……ありがとな…………」「ほら、“私”も早くこっち来なさいよ。 私たちに聞きたい事あるんでしょ?」「あ、うん……」 5年後美琴の呼びかけに美琴はソファから降り、上条が座っている隣のイスへと座った。 の、だが、なぜか距離ができる限り距離を取ろうとしているようで、机の一番端まで移動して行った。 それを見た上条は考える。(?? 怒ってはないみたいだけど…………ひょっとして避けられてる? やっぱりイヤだった、っていうか嫌われた……? それはさすがにキツいな…………) 『御坂に嫌われた』という間違った考えに、ちょっとショックを受ける上条だった。 その一方、5年後上条と5年後美琴の間は『0』。 美琴が上条の左腕に抱きつく形で、ぴったりくっついている。 どうやら5年後の2人はこれが『当然』のことのようで、5年後上条は5年後美琴の頭を優しくなでながら、「で、5年前の俺。 まず何から聞きたい?」「あ、ああ、えーとな……」 5年後の2人には、聞きたい事はもちろん山ほどある。 多過ぎて困るレベルだ。 目の前の2人のラブラブっぷりについても聞いてみたかったが、とりあえずは根本的なことを選び上条は質問する。「じゃあまずここは5年後……ていうか俺が21歳の時代でいいんだよな?」「ああ、その通りだ。俺は21歳、美琴は19歳ってことだな」「だよな……なのに結婚してんのか……? その年齢だとまだ結婚しないで付き合ってるのだ一般的だと思うんだけど」「一般的にはな。 でも俺は美琴が高校を卒業すると同時にプロポーズしたからさ」 すると5年後美琴は、後ろの棚の上に置かれていた2つの写真立てを手に取り、上条と美琴へ差し出した。 「ほら、これが結婚式の写真よ。 よく取れてるでしょ?」 そこに映っていたのは、タキシードを着た上条の姿と、ウエディングドレスを身にまとった美琴の姿だった。 上条が美琴をお姫様だっこし、2人は満面の笑みを見せている。 そしてもう1枚はというと、式場内で永々の愛を誓い合っている瞬間、つまりキスしている写真だった。 「す、すっげー幸せそうだな……」「もちろんよ! ほんとに幸せだったんだから。 ま、今でもその幸せは続いてるけどね」「そりゃ上条さんは美琴を一生幸せにするって誓ったからな」 えへへ、と笑う5年後の2人。 実に微笑ましい。 そんな2人と、結婚式の写真を見た美琴は小さく呟いた。「いいなぁ……」「へ? いいな? 御坂も結婚したいのか?」「ええ!? …………それは……まあ、したい、かな…………」「やっぱ女の子はそういうこと考えるんだなー。 でも大丈夫だって、将来的にはできるだろ。 世界には何億って人間がいるんだからさ…………って、御坂? なんか不機嫌になってない?」「なってないわよ……このバカ…………」 そういいながら、美琴は上条を睨みつける。 ほんのわずかながら電気が宙を漂っているのも目に見えるし、誰がどう見ても不機嫌になっている。 それを見た5年後上条は「いや5年前の俺。 世界には何億の人がいるとか言ってるけど、将来美琴と結婚するの俺だぞ?」「…………あ」 5年後の自分のツッコミに上条は『俺は馬鹿か』と思った。(そうじゃん…………目の前で俺結婚してるじゃん……ていうかこのままいくと俺も5年後には御坂と結婚することになるのか?) そう思い、ちらっと美琴に視線をやると、「け、結婚……私とコイツが…………5年後には……」 『結婚』という事実を再認識したのか、彼女はなんか様子がおかしかった。 顔は最早当然のように赤く、どこか上の空のようだ。 声を書けようかとしたのだが、その視線に気づかれたのか、ふいにこちらを見た美琴と目が合った瞬間に再び目をそらされた。(……やっぱ避けられてんのか) と、まだまだ勘違いを続ける上条は一つため息を吐いてから、話を本題へ戻す。「いやでもさ、21歳っていったらまだ大学生だろ? 働いてもないのに結婚なんてして大丈夫なのか?」「大学? 俺、大学へは行ってないぞ」「え……行ってないのか? まさか俺の事だから浪人中とか…………?」「いやいや浪人とかしてねーから。 高校卒業してから働いてるんだよ」「マジか!? 働いてんのか!? ……なら結婚してても……大丈夫なのか? 働いているのならば、自分の力で生活しているということ。 親や美琴に頼っていないということがわかり、少し安心した上条に5年後美琴は再び写真を手渡す。 「でね、今度はこれ見てくれない?」「これ……何だ?」 今度の写真に写っているのは、喫茶店のような建物の前でお揃いのエプロンをしている自分と美琴の姿だった。 当然のごとく2人とも満面の笑みだ。「喫茶『KAMIKOTO』……? ここで働いてんのか? それになんで御坂まで同じ格好して写ってんの?」「あ、ひょっとして私はここでアルバイトしてるとか? 」 上条と美琴が複数の質問を投げかけると、それに5年後美琴が答える。 だが、答えといっても、それは彼が望んだような答えではなかった。 「アルバイト? 何言ってるのよ」 ほんの少し顔を傾けた後、彼女は軽く微笑み「これは私たちのお店よ。 2人で一緒に喫茶店をやってるのよ、名前でわからなかった?」「「え」」 上条は自分の耳を疑った。 『私たちのお店』、『2人で一緒に喫茶店をやってる』という2つのとんでもワードが聞こえてきたきがするが、気のせいだろうか。 そして上条と美琴はもう一度手元の写真を見てみる。「……ま、まさか、この喫茶店の名前の『KAMIKOTO』って……」「私たちの名前から……?」「そうよ、上条当麻の『上』と上条美琴の『琴』をとったの。 ほんとは2人の名前からとって『MAKOTO』にしようかと思ったんだけど、当麻がこっちの方が語呂がいいっていうから」「さいですか……」 とても嬉しそうに話す5年後美琴と、それを笑顔で見ている5年後上条と、顔が引きつる上条。(5年後の俺たちってどんだけラブラブなんだよ……一緒に経営って…………ていうかこれはさすがに御坂も嫌なんじゃ――)「わぁ…………これが私たちのお店……」「ありゃ……?」 また上条の予想は外れた。 美琴は嫌がるどころか、目を輝かせて写真に見入っていた。 “食い入るように見る”とはこういうことを言うのだろう。 しかし、上条は彼女の目の輝きには気づかない。(これも嫌じゃないのか? ……ていうか喜んでる? いやまあ怒っていないならいいか) ほっとした上条は、机の上に置かれていたコーヒーカップを手に取り、一口飲んだ。 何気なく飲んだ一口であったが、上条はその味に驚愕する。 「…………このコーヒー美味くね? 5年後ってコーヒーまで進化してんの? 普通じゃない美味さなんだけど」「え、どれどれ…………わっ! ほんとに美味しいわね。 インスタントじゃないわよね?」「もちろんインスタントじゃないわよ。 このコーヒーは当麻が作ったんだから」「え……これを!? 冗談抜きですげー美味いんだけど……マジで俺が?」「大マジよ。 お店でもすっごい好評なんだから」「これを店で出してるのか…………これだけ美味けりゃ客も入るだろ」 それほどコーヒーは美味しかった。 今まで飲んできたコーヒーの中ではダントツだ。 上条と美琴の反応に、5年後上条は少し恥ずかしそうな様子を見せながら「高校出て2年間は武者修行してたからな、味にはそこそこ自信あるぜ。 だからお客さんは結構来てくれるけどなぁ……俺は心配なんだよ……」「心配? 何がだ?」 コーヒーの味は問題ない。 ということは飽きられること、とかなのか。 と、思いきや、5年後上条の答えはまたまた予想外の物だった。「男の客だよ!」「…………は?」「は? じゃねぇって!! だって美琴は超可愛いじゃん! 美琴目当てで来る客なんて山ほどいるんだぞ!? 上条さんは日々心配ですよ……客の野郎共が俺の美琴に手を出さないかってことが……」 冗談だろ? と、声に出そうかと思ったが、上条は止めておいた。 目の前で本気の様子で悩む彼に『冗談』などという言葉をかけることはできなかった。 そんなわけで眉間にしわを寄せリアルに心配する5年後上条に、5年後美琴が言った。「何言ってるのよ。 当麻目当ての女の子だっていっぱい来るじゃない。 私たちが夫婦だってことはお客さんも知ってるはずなのに、毎日メールアドレス交換してくださいって言われたり、何十通もラブレターもらったり、ストレートに好きですって言われたりしてるし…………そっちの方が心配よ」「…………確かに最近やたらモテる気がするけど、全部断ってるだろ? 上条さんは美琴しか愛さないから心配しなくてもだいじょーぶ」「……ほんとに? よくお店の中でも女の子に抱きつかれたりしてるじゃない……」「あ、あれは不可抗力だって!! 毎回言ってるだろ? この指輪に誓って、上条さんは浮気なんてしませんことよ?」 そう言った5年後上条は、5年後美琴の頭を優しくなでる。 フラグ体質で女子を引き寄せる上条、看板娘として男子を呼び込む美琴。 この2人が経営する喫茶『KAMIKOTO』が毎日長い行列を作るほどの超人気なのは、容易に想像できるだろう。 そして5年後上条は知らない。 女子中高生は“わざと”つまずいたりして、抱きついてきていることを。 そんで。 このままではいつまで経っても真相が知れそうもないので、上条がため息まじりに言う。「あのー……いちゃついてるとこ悪いんだけどさ、そろそろ5年前に帰る方法教えてくれないか? 時間も時間だし俺腹減ったんだよ」「お腹減った? じゃあご飯にしましょ♪」「え、いや帰る方法を……」「よーし、じゃあ俺も手伝うよ」「人の話聞けよ……上条さん泣くぞ……」 今の自分からでは考えられない2人の仲の良さに、若干、いや普通にうんざりする。 しかし、この後5年後の自分たちのラブラブっぷりを目の当たりにすることになる――
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小ネタ 第8回 異教のサルでもわかるツンデレ語講座 こんばんは。異教のサルでもわかるツンデレ語講座の時間です。[前回の吹寄制理さんの回で、「大覇星祭」と表記するところを、 誤って「ナチュラルセレクター」と表記してしまった事を、改めて深くお詫び申し上げます。]今週は2回目の登場となります。御坂美琴さんを例に見ていきましょう。まずは日常会話から。美琴 「…ねぇ、アンタってさ……その…女友達多いじゃない? かか、彼女とか…ほ、欲しくない訳…?」上条 「そりゃできるなら欲しいけどさ……俺なんかを好きになってくれるヤツなんていないだろ?」美琴 「ひ、一人くらいいるんじゃないの!? アンタのことが好きでアピールしてる人が!!」上条 「例えば?」美琴 「た、例えば……いつも帰り道で偶然出会ったり、お、お揃いのストラップやペアリング渡されたり…… あ、あ、あくまでも例えばだからね!?」上条 「……そんなの御坂しかいねーじゃん」美琴 「ア、アレー? ソー言エバソーネー、グ、偶然ネー」上条 「ったく、からかうなよ。一瞬本当に『御坂が俺のこと好きなんじゃないか』って思っちまったじゃねぇか」美琴 「あ、あはは! もう、そんな訳ないじゃない! あはははは…はは……はぁ……」お互いにもう一歩、といったところですね。では早速ツンデレ語を標準語に訳してみましょう。美琴 「アンタってさ、彼女とかは欲しくないの?」上条 「そりゃできるなら欲しいけどさ……俺なんかを好きになってくれるヤツなんていないだろ?」美琴 「そんなことないわよ! アンタが気付いてないだけで、アンタのことが大好きな人はいっぱいいるんだから!」上条 「例えば?」美琴 「目・の・ま・え! 誰がいる?」上条 「……そんなの御坂しかいねーじゃん」美琴 「えへへへへ…そういうこと!」上条 「ったく、からかうなよ。一瞬本当に『御坂が俺のこと好きなんじゃないか』って思っちまったじゃねぇか」美琴 「い、一瞬だけ!? も~~!!私は本気なのに~~~!!!」はい。とても微笑ましい会話となりましたね。次は勉強を教えてもらった後の会話を見てみましょう。上条 「ぶはぁ~~~終わった~~~!!! サンキュー御坂、おかげで助かったよ」美琴 「別にいいわよ。大したことじゃないし」上条 「けどわざわざ休日に呼んどいて、宿題手伝ってもらった挙句、このまま帰すのは悪いよな…… お礼したくても金も無いし……何か俺にしてほしいことってあるか?」美琴 「は、はあ!? な、無いわよそんなモン!!」上条 「あっ! じゃあご褒美のチューなんてどうでせうか?」美琴 「なっ!!!? バ、ババババカじゃないの!!? そそ、そんなのご褒美どころか罰ゲームじゃない!!!」上条 「…いや、冗談だよ……」美琴 「え? あ、うん…冗談ね。うん、も、もちろん分かってたわよ? うん」このままでもいい感じですが、ツンデレ語を訳して見てみましょう。上条 「ぶはぁ~~~終わった~~~!!! サンキュー御坂、おかげで助かったよ」美琴 「私もアンタん家来れて楽しかったから、おあいこよ」上条 「けどわざわざ休日に呼んどいて、宿題手伝ってもらった挙句、このまま帰すのは悪いよな…… お礼したくても金も無いし……何か俺にしてほしいことってあるか?」美琴 「それは…まぁ…いっぱいあるけど……」上条 「あっ! じゃあご褒美のチューなんてどうでせうか?」美琴 「……………いいの?」上条 「…いや、冗談だよ……」美琴 「やだ! 私もうスイッチ入っちゃったもん! チューしてくれるまで帰らないもん!!」標準語に直しただけで、とてもストレートになりましたね。 それでは次は、インデックスさんも交えた会話を見てみましょう。禁書 「……何で短髪がここにいるのかな。ここはとうまと私のお家なんだよ!」美琴 「確かにここはアイツの寮だけど、アンタはただの居候でしょ!?」禁書 「だからって短髪が来る道理は無いんだよ! かーえーれ!かーえーれ!」美琴 「よっしゃ、そのケンカ買ってやろうじゃない!」上条 「……あのさぁ、お前等…前から思ってたんだが、何でそんなに仲が悪い訳?」禁書 「とうまがそれを聞くのはおかしいかも!!」美琴 「そうよ! アンタがはっきりしないのが悪いんじゃない!!」上条 「はっきりって……何をだよ」禁書 「それは……」美琴 「ねぇ……」上条 「?」それでは早速訳してみましょう。禁書 「……何で短髪がここにいるのかな。ここはとうまと私のお家なんだよ!」美琴 「いたら悪い訳? 私だってアイツと遊びたいの!」禁書 「だからって短髪が来る道理は無いんだよ! かーえーれ!かーえーれ!」美琴 「うっさいうっさい!! アンタはいつでもアイツを独り占めできるんだから、たまにはいいじゃない!!」上条 「……あのさぁ、お前等…前から思ってたんだが、何でそんなに仲が悪い訳?」禁書 「とうまがそれを聞くのはおかしいかも!!」美琴 「そうよ! アンタが、私かこの子かはっきり選べばこんなことにはならないんじゃないの!!」上条 「はっきりって……何をだよ」禁書 「それは……」美琴 「これだけ言っても気付かないって…どんだけ鈍感なのよアンタは……」上条 「?」やはり上条さんは上条さん、という事ですかね。それでは最後はいつもの様に、普段使っている言葉を、いくつかツンデレ語に訳してみましょう。「好きになっちゃうじゃない」⇒「思いっきりカッコつけてんじゃないのよ!!」「名前で呼んでよ」⇒「ビリビリ言うな!」「だって…少しでも一緒にいたいんだもん」⇒「用事がある訳じゃないんだけど。……ある訳じゃないんだけどさ」「もう! どれだけ心配したと思ってんのよ!」⇒「今日という今日こそこれまでの事全部話してもらうわよ!」「ずっと一緒にいる」⇒「今度は一人じゃない」と言ったところで、今週の、異教のサルでもわかるツンデレ語講座はここまで。来週は麦野沈利さんを例に解説したいと思います。それでは、またお会いしましょう。次も見たいなら見れば!? わ、私は別に見て欲しいなんて、思ってないんだからね!!
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記 夏祭り 「「インデックス!!!!」」 と、叫ぶステイルと神裂の声が届いた。 そちらに目をむけると、全体的に白い男が緑色の服を着たインデックスを抱いて人混みをかき分けていた。その少し後方にステイルと神裂の姿が見える。人の壁に阻まれ、思うように進めないようだ。 「すてーる!! かおり!!」 大声で彼らを呼ぶインデックスは、 「ばーばい!!!」 元気に手を振った。いい笑顔だ。 いや、バイバイじゃ困る。 この状況に動く影が2つ。 「ちょ、おい!! わ、悪いオティヌス!!」 「え!? なに? 誰? ま、待ちなさい!!!」 後方から声がかけられたが、彼らには届かない。 別々の道で二人はインデックスを追った。 比較的人混みから離れていた2人は少しずつ人拐いとの距離を詰める。 が、人拐いは会場から出てしまった。 人の壁がなくなる。 白い男は速度をあげた 少しして彼らも会場を出る。 で、ばったり合流した。 「あれ? 美琴?」 「へ? え? 当麻?」 話したいことは互いに多々あったが、 それ以上言葉を交わさず、顔を正面に向け追走を続ける。 追いかけっこが終わった場所はとある公園。 街灯が点滅した。 美琴が電磁波で移動する手段に使ったからである。 誘拐犯を飛び越えた。 後方から上条も追い付く。 3人は動きを止めた。 「追い付いたぞ!!」 「その子を渡しなさい!!」 一瞬、2人を交互に見たその男は、みことに向かって走り出す。 そして、インデックスを渡した。 「へ?」 「まーま!! まぁま!!」 言葉を出さず、静かに頷いた男はそのまま走り去った。 「大丈夫か!!」 「え? うん、大丈夫」 「ぱーぱ!!」 しかし、大丈夫かどうかはわからない。 いつの間にか魔術をかけられている可能性がある。 まずインデックスを右手で撫でる。 「うぅ、ぱ~ぱぅ」 ほっぺたを右手でふにふにする。 「ぶぅ?」 その後、首、肩、背中、腕、手、足、お腹、そして胸を右手でさわる。 「大丈夫だな」 「よかった」 まて? そういえば美琴とも接触していたな。 まず右手で撫でる。 「へ? え?」 ほっぺたをふにふにする。 「ひょ、ひょっほ、なにひゅん」 その後、首、肩、「ちょ、な、に」背中、腕「ペタペタ、さ、わっ、」足、お腹「ふぇ!!? ふ、ふにゃっ!!?/////」そしてむ「やめんかーーー!!」 顔面グーパンのあと回転蹴りがこめかみに炸裂する。 「どんだけその手の奴とやりあったと思ってんの!! 体の異常くらい電磁波で把握できるわい!!」 肝心の上条に聞こえているのか? そこでようやくステイル達も追い付いた。 「これは…………ひどいね」 「顔面がへこんでいるうえに、こめかみから煙が…………許せません」 ソーダネヒドイネアノシロイヤツ 「い、インデックスは無事だ、さっきこの右手で確認したから」 へこんだ顔を元に戻した上条の言葉に、魔術師は安堵した。 「わかった。僕たちは奴を追う」 「その子を任せます」 去っていく2人にインデックスは手を振る。 再び上条家だけになった。 一息ついて、ようやく美琴は気づく。 「大変!! 当麻!!!」 「どうした!!」 「この子、ゲコ太になってる!!!」 「…………」 ほんとだー。 ゲコ太のキーホルダーや風船に囲まれた美琴に抱かれるゲコ太インデックス。 シュールだ。 その光景に上条はそっと微笑むと、ぽんっと美琴の頭に手を乗せる。 (え? ふぇ?) 魔術対策ではない。 なぜ頭に彼の右手があるかわからない。 顔が赤くなる。 体温が上昇する。 上条は優しい表情を浮かべて、 一時して ピキッ と青筋を浮かべてからのアイアンクロー 「ん? いだっ!! いたたたたた!!」 「美琴さん、なにまた無駄遣いしてるんですか?」 「し、しまったあだだだだ!!」 「あれ? 無駄遣いするなって何度目だっけ? おかしいなぁ、つい最近もいったはずなのになぁ。もしかして美琴さん記憶力ないのでせうか?」 上条の顔が1万円札の福沢諭吉もびっくりの陰影を帯びる。 「だ、だって見たことのないグッズで、この夏祭り限定品みたいだたたたた」 「じゃあ、この先もクリスマスや正月の度に何回も何十回も同じ過ちを繰り返すおつもり でいやがりますのか?」 「ご、ごめんなさ~~いたた、き、気を付けますぃたたたた!!」 「気を付けるだけ?」 「こ、今後は相談した上で購入いたしまぁあだだだだだ」 「よろしい」 まだ痛みが尾を引いているのか、 あぅ~~あ~ と唸る美琴。 「まーま? だーぶ?」 インデックスも心配してママのほっぺをなでなで。 お仕置きを終えた上条のポケットからピロリン♪と音がなる。 携帯を見ると、「トール」の名が見えた。 やはり、少し、 腹が立つ。 …………なんで? 内容を確認すると 『オティヌスと合流したからアジトに戻る』 とのことだった。 CCに御坂美琴の文字が見える。 美琴が今見ているメールも、同じトールからの内容だろう。 イライラする ……………………だから、なんで? そんなとき、声をかけられた。 「ねぇ、オティヌスと一緒にいなくていいの?」 「へ? なんで?? あ、そういえば挨拶もなく置いてきちゃったなぁ、悪いことした」 「…………戻らなくて、いいの?」 なんでこんなこと聞くのだろう? 自分がいるのがなにか不都合なのか? そう、例えば、 「あー、お前こそ、インデックスはオレに任せて、トールのとこ行っていいぞ?」 「??? あ、そういえば、何も言わずに飛んできちゃった」 「…………ん、だったら、さっさと追いかけてやれよ」 「……なんでそんなに私をどっかにやりたがるの? 私のことは気にすんなって言ってんだから、オティヌスを追いかければいいじゃない!!」 「はぁ? どっかにやろうとしてんのは美琴の方だろ?? オレとインデックスのことはいいから、さっさと行きたいとこ行けよ!!」 「だぁ!! だぁ!!」 ケンカ腰になっていた上条と美琴は、インデックスの怒気で怯んだ。 「だ! ぶ!! けーか!! めっ!!」 赤ん坊に叱られるとは思わなかった。 情けない表情になる。 そんな2人の顔が突然光に照らされた。 この音は、夏の風物詩。 「「…………花火だ」」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記